丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947
~説明~
苦し紛れで出した坪内が一番気になるキャラになってしまった


二話目にしてイキナリ外伝(笑


坪内昭三1947 其の23

不意を突かれたが、少佐との距離の差は40メートル
性能的には、やはり少佐のジープの方が一枚上手であったが
雨降りの重馬場である、辛うじて橋本は少佐のジープの後部が見える位置に張り付いていた。

「坪内!この先にカナリ急なカーブがあったな、それも結構、道幅が広いやつ!」

坪内が慌てて帳面を確認する

「ある!そこだけ4メータ近く幅があって角度は160度右カーブ!あのカーブ
から出て300メータ先だ」

「4メータ右!了解!入り口の50メータ手前に来たら知らせろ!いいな!」

「了解!」

緩めのカーブを抜け一気にアクセルペダルを踏み込み狭い林道を、ぞっとするような速度で
加速する、少佐が少しスピードを緩めた、残念ながら、伍長は坪内程、用意周到では無かったようだ
息を呑み全身の毛を逆立て坪内はタイミングを必死ではかりその瞬間、必死に叫んだ。

体で感じる速度とカンで巧みにブレーキを操り片目で感じられる距離感ギリギリの所
へクリッピングポイントを決めると林道ギリギリのラインを通って橋本は少佐のジープを追い抜いた。

橋本で無ければ、まず間違いなく脱輪転覆している所だ。

少佐も追ってくる、橋本も必死に逃げる、まさに命がけだ、だがパワーに勝る少佐のジープ
は直線で何度も抜き返して来た、その表情は、すでに戦後、日本の守銭奴と関って
ふやけていた彼の物ではなく、間違いなく、かつてのそれだった。

転覆寸前の攻防が6回続き、短い距離で急カーブが続いて橋本が、かなりの差をつけた。
坪内のナビが実に効果的にレースの展開に影響したのだ。
少佐の正面に橋本のジープは見えなくなった、正面には。

少佐は曲がりくねる林道の下の方に橋本のジープを確認するとジープの速度を下げ
林道脇に停車、車を降りるとその先の風景をじっと見据えた。

二段ほど曲がりくねった、先に橋本のジープが見える。
ここは、たまたま地形的にそれがよく見えるのだ、低い雑草は生い茂っているが樹木は無かった。

四段先まで見える

「少佐やめましょう、あんな約束は無効です、命がけの価値は無いですよ!」

冷や汗拭いながら伍長は、助手席から悲鳴を上げるように言ったが、少佐は無関心に一瞥すると
何も言わずに終戦後も彼の希望でジープのフロントに取り付けてあった
ワイヤーカッターの感触を確認した。


「ワイヤーカッター」戦時中ドイツ軍などが、ジープで走る米兵を狙って仕掛けた「ワイヤートラップ」に
対処するために装着された装備である、ジープを運転する米兵の首の辺りの高さに掛かるようにワイヤーを
はって置くという実に簡単な罠だったが、大戦初期これに首を切られる米兵が続出した為、鉄の棒の先を
「く」の字に曲げた物を取り付ける事で米軍はこれに対処していた。



11月17日(木)00:27 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の22

奥多摩湖の湖畔で、二人を待つ少佐の表情は何故か笑顔である。
もうすでに、約束の時間は過ぎている、この上官の酔狂に付き合わされた
伍長は何度も腕時計を見ては少佐に帰りをうながしたが、少佐本人は、のらりくらり
と道端の雑草の茎を齧りながらただ笑うのみだった。

半時間が過ぎ、快晴だった空に黒い雲がわいて来た

・・・一雨くるのか、やっかいな事だ。

このチッポケな国との戦争が終わってこのカウボーイは日本人と言う物を
実にじっくりと観た、他の同僚は心の何処かで豹変した侍達に唾を吐きかけながら
楽しんでいたが、しかし彼はそんな同僚にどこか違和感を感じていた。

そんな自分の心に気づいたのは、つい最近の事だ。

・・・俺は多分、何かを探しているのだ。

テキサスの元不良少年が日本人の商売人に深く関ってしまったのは、何故かと
自問自答したとき、ふっとそんな答えが出てきたのである。

・・・多分あれが・・・俺が戦った奴らが、幻で無かった事を確認したいんだ。

故郷とは全く異なる少し濁った色の空を見上げながら少佐は、そんな感傷的な自分に苦笑いした。

・・・どっちにしろ、全て今日で終わる。



雨が降り出した。
橋本と坪内のジープは、林道を駆け上がって行た。

「くーっ降り出したぜ橋本っさん!やっこさん痺れ切らして帰ってなきゃいいんじゃがなぁ!」

「帰りゃしねぇさ、ニヤニヤしながら待ってるだろうぜ」

「小次郎気取ってか?どんなもんかのー?」

軽口を叩きながら、揺れる車内で坪内は雨の中、ボロイ帳面に必死で地形を記録している。

橋本には、確信があった奴は待っている。
ハッキリとした根拠は無い、だがあいつは商売人を気取ってるが
俺と同じ種類の人間だ、こういう種類の酔狂を心底で馬鹿に出来る奴じゃない。



11月14日(月)22:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の21

黄金地帯の陣地の中に、もう迷いは無かった。
橋本を止める人間は誰もいない、ただ皆が緊張しながら彼の行動を見守っていた。

「もっときつく縛ってくれ」

「しかし、これ以上きつくすると血が止まりもす」

「いいから、やってくれ」

平田が、スクラップから切り出した鉄板を曲げた補助具を、佐門が、うっすらと血の滲む
橋本の右手を覆うように縛り付けていた、何とか親指は生きている、他の指は動かない状態だが
これで取り合えずはメインのシフト操作が可能になる。ハンドルもどうにか握れそうだ痛みはするが・・・
橋本は、ジープに乗り込むとシフトの感触を確認した、微妙な操作は正直難しくなったが
それより問題は、メインのシフトの下にあるフロントドライブの操作だ。
ウェイン少佐もフルにシフト操作してくるだろう、林道のレースとは言え四輪駆動で固定する
訳には行かない、走行中の操作は難しい・・・

諦めて、改造の際、取り付けた戦闘機のシートベルトを固定していると。
縄と三枚の座布団を持って、緊張で顔を強張らせた坪内がやって来た。
後ろで坪内の家族が心配そうな顔で見ていた。

「何だよ、まだ止める気じゃねぇだろうな」

「止める気なんざ無いわい!わしゃあんた踏み抜く、ただあんた一人にゃ行かせネェ!佐門!」

佐門が、思わず驚いた。この男が敬称を付けずに自分を呼んだのが始めてだったからだ。

「ワシを助手席に縛り付けてくれ」

「親方、何を考えておられるんじゃ!」

「やめとけ、お前まで怪我させる気はねぇ」

「うるさい!わしゃあんたの雇い主じゃ、いいか?勘違いするなよこのジープの持ち主は誰じゃ?
言う事聞かないんなら降りてもらう」



7月29日(金)22:41 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の20

賭場で転がされた橋本に三杯目のバケツの水がかけられた。
途切れ途切れの意識の中、橋本の脳裏に浮かぶのは
以外なほど下らない物だった。
この騒動の直前に受けた縫い物の仕事の事が何故か気になってしょうがない。

「この手じゃ針は持てネェ・・・」

続けて橋本は、シンガーの足踏みミシンを黙々と不機嫌な顔で踏み続ける
親父の背中を思い浮かべた、中等学校で陸軍飛行学校への推薦を受けた時も
母親は右往左往して混乱していたが、親父はいつものとうりだった。

夜なべして、親父はいつも納期を守ってたイライラしながら・・・
蛙の子は蛙って奴か・・・

南方へ出兵して以来、音信不通だがあの親父はどうしているんだろう。
相変らず、休みに借り物の田畑を耕し、今もシンガーを踏み続けているのだろうか?

右手の中指に、片目の金槌が振り下ろされ、ボンヤリしていた意識に雷撃のような痛みが走り
夢のような世界から無理矢理引き戻され絶叫を繰り返すが、何故かそんな自分を遠くから見ている
冷静な意識が同時にいた。

片目は引きつりながら笑い続けていた。
嫌な野朗だが、こういう奴がこれからまかりとおるのか・・・・
まぁ今に始まったことじゃねぇ・・・・・
戦死は免れたが・・・・撃墜されて死ぬのと違うかと言えば大差ねぇのかもしれねぇ・・・・

右手の中指が砕けて、片目はもう一杯バケツの水を掛けさせると。
手足を押えさせる必要の無くなった橋本の襟首を掴みあげた。

「さぁて・・・・もうちょっとで、おめぇも廃業・・・ククク・・・いやもう廃業だな!すまねぇすまねぇ!」

痛みは、もう一線を越えていた、油断すると完全に意識が飛びそうになる。
諦めちまえば、もうそれでいい・・・・だが何かが、そうなりそうな橋本の意識を引き止めた。

俺を楽にしてくれないコイツの正体は一体なんだ???

「橋本、どーする?偉い事になっちまったぜ!右手もう使い物にならねぇぞ!ぜーーーんぶ
てめぇの責任だけどなぁ!いやぁ俺も悲しいぜ人生終わりだなぁ」

そう言いながら笑う片目の顔を見て、橋本に今更おかしな感情が湧いてきた。

「怒り」だ。

そうか・・・こいつの正体は・・・そうか・・・まだ俺は死んじゃいねぇ・・・

橋本は、自分をボロねずみをオモチャにする猫のように弄ぶ片目の面に唾を吐きかけた。

「てめぇ・・・・」

青筋を立てた片目は、橋本を床に叩き伏せると、金槌を中指に叩き付けた。

中指が根元から、外れた。

「水だぁ!寝かすんじゃネェ!さっさと次持って来い!」

「へい!」

あまりの残酷さに震え上がっていた片目の手下が、バケツを持って出て行こうとした
が戸口で突然立ち止まった。

「何やってんだ?さっさと行け!」

「そうは、いかねぇそこまでだ」

意識が飛ぶ寸前に橋本が見たのは、二丁拳銃を構えた高倉と返り血を浴びたドスを
持つカフェのママだった。気おされたチンピラが後ずさりする。
片目が、何が起こったか、把握出来ずにいる所に高倉が、ずかずかと進んだ。

「高倉・・・てめぇ」

橋本の状態を見て、高倉は溜息をついて、いきなり片目の頭に銃を構えた。

「おめぇやりすぎたよ」

そう言うと、あっさり高倉は引き金を引いた。



7月13日(水)01:31 | トラックバック(0) | コメント(1) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の19

小火騒ぎが収まり、橋本は改めて縄で縛られて
人のいなくなった賭場に転がされていた。
片目が額に青筋を立て引きつった笑顔をつくりながら、
橋本の側に屈むと手に持ったドスの鞘で
橋本の腫れ上がった頬をピシャピシャと叩いた。

「まったく嫌な野朗だねぇ、おとなしくしてりゃぁ明後日の朝にゃ
無罪放免って言ってやってたのによう」

橋本は、改めて殴られたのか口答えも出来ない状態だった。
ウンウンうなるのが精一杯、変形した顔面から
血がしたたり落ちて薄汚い賭場の畳を染めていた

「まぁな、死んでもらうのが一番簡単なんだがね、お前、俺の左目潰してくれたからねぇ
まずは、お礼をしなきゃいけねぇ・・・・」

黒い眼帯をつけた左目を指差すと橋本の髪を掴み上げた
息も絶え絶えの橋本が、振り払おうとするが見張りをしていたウドの大木野朗が橋本を押える。
片目はドスを鞘から抜いた、橋本の腫れ上がった左目に切っ先をつきつける

「やっやっやべど・・・・」

「そうは、行かねぇ。悪いのは、おめえだ」

腫れ上がった瞼の上からドスを突き立てた。
声にならない叫びを腹の底から絞り上げながら橋本は身をよじる。

「さて・・・これでまずは、おあいこだ・・・・次は、どうしてやろうかな・・・」

片目は懐からタバコを取り出すと、舎弟に火をつけさせて、楽しそうに次のリンチの方法を考え始めた。



カフェのママが高倉組のビルの前、クロガネ4起を乗り付けると。
花束持って待っていた組長の高倉が、それを迎えた。

「お嬢さん、お待ちいたしておりやした」

「挨拶は、いいよ、それより出入りだ、覚悟は決まってるだろうね?」

「えぇ?出入り?」

「あんた、それぐらい察しを効かせな!何、呑気に花なんぞ持ってんだよ、
まったく・・・支度違いだよさっさと道具もって横に乗りな!」

「いや、お嬢さん!やめときなせぇ!せっかく先代が、お亡くなりになって堅気になったんだ
つけの取立てだぁなんだで、殴りこみやらかしちゃぁ草葉の陰で親父さんが泣きますぜ!
そんな事ならあっしらが、うまく平和的に・・・いやまぁヤクザ的にまぁどうにかいたしますから」

「ほんっとにあんたはバカダネェ、呆れて物もいえないよ!なんだい!平和的にヤクザ的にってなぁ
腑抜けのどっかの国の憲法じゃ無いんだよ!あたしの大事な妹分とその間夫が柄さらわれちまったんだ!」

「なんですって!!!そいつぁいけねえ!!!」

高倉は、顔色を変え、持っていた花をもったっままモンドリうつように
踵を返し事務所に駆け込むと。しばらくして旧軍の鉄兜を被って襷がけにドスを持ち
持てる限りのピストルを襷と帯に突っ込んで出てきた。

「あんたねぇ、それ売りに行くのかい?二人きりしかいないんだ、どうするんだよ、まったく」

真顔で懐から一丁取り出し、ママに渡すと続けて高倉は言った

「お嬢さん、こいつぁね、こういうもんだ。ドスなんざ、二三人怪我させたら
案外使えなくなるもんです、鉄砲だって弾込める余裕なんてねぇもんだ。
奴ら、高田馬場あたりに最近、賭場開きやがったんだがその辺でトグロまいてんでしょう
こう見えてもね、無茶な殴りこみなら、あっしの専売特許、まかせておくんなせい」



7月7日(木)01:42 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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