丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947
~説明~
苦し紛れで出した坪内が一番気になるキャラになってしまった


二話目にしてイキナリ外伝(笑


坪内昭三1947 其の18

次の日の朝、カフェのママが目をさますと。
ソルミは寝床にいなかった。
目を細めて微笑みながら、窓の外を見てみるとクロガネ4起の中にも二人はおらず。
昨日、橋本に貸した毛布がそのままになっていた。

毛布をかたずけようと店を出て車のドアをあけ、毛布を手にすると
血が滲んでいた、おかしな勘繰りをして顔を赤らめるママ

「橋本さん、やさしくしてあげてくれたのかしら?」

よく見ると毛布だけでなくシートのあちらこちらに、どす黒い出血の後がこびり付いている。

ようやく異常に気づくと毛布を置いて店の中に慌てて戻り。
カウンターの電話のハンドルを回し交換手を呼び出した。

「新宿の高倉組につないで、大至急」

しばらくして、組長本人が出てきた

「高倉さん、そっちに今、何人いる?あんただけ!・・・まぁいいわ・・・すぐに行くから支度しな!」

そう言って電話を乱暴に切ると、奥の部屋の押入れの中に隠してあった長いドスを取り出し
刀身を確認した、鈍く光るドスを鞘に戻すと今度はサラシを取り浴衣を脱ぐ。
白い美しい彼女の背中には見事な登竜が彫られていた。

腹から胸にかけて、サラシを、きつく巻く。


歌舞伎町の闇市から少し離れた民家に、賭場が開かれていた。
人相の悪い連中がタバコの煙で煙る部屋で札束を握りながら睨みあっている。
そこに橋本に片目を潰されたヤクザが顔を出した。

「おうっあいつらどうしてる?」

壷を振る若い衆が手を止めると頭を下げて答えた。

「へい、異常ありません、見張りに二人つけてあります」

「そうかい、ちょいと見舞ってやるか」

ニヤニヤしながら奥に入ると中庭にコンクリートの蔵があった。
見張りの二人が礼をする、片目は、背の異様に高い方に指示して鍵を開けさせ
暗い蔵の中を覗いた。

後ろ手に縛られた橋本がウンウンうなっている。
その側で縛られて座っているソルミが片目ヤクザを睨んだ。

「二人っきりでいいところ申し訳ネェなぁ橋本、気分はどうだ?」

「いいわけないじゃない!」

「お嬢ちゃんに聞いちゃいねぇよ、そこに転がってる野朗に聞いてるんだ」

「ふざけんな!」

そういうと、ソルミは唾を吐きかけた。
片目はポケットからハンケチを取り出し唾のついた顔を拭くと面白そうに
這いつくばりながら自分を睨む橋本を見下ろした。

「何、後二日ばかり、ここで寝てくれてりゃいいのさ、おかしな事しやがったら
女と一緒に江戸前の海に沈めて寿司ネタの餌にしてやるからな、じっとしとくこった」

ひきつった笑い声をあげながら片目は、橋本の髪を掴み、立たせると足をかけて引っくり返すと
蔵の隅にあったガラスの壷が棚から転げ落ちて大きな音を立てて割れた。

「橋本さん!」

もう一度嫌な笑い声を上げると、片目は蔵に鍵をかけ直した



7月4日(月)12:08 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の17

クロガネ4起に押し込まれた二人は、所沢から歌舞伎町に向っていた。
ソルミをネグラに帰してやるためである。
おかしな気を使われたが橋本にはそんな気は無い。

と言えば嘘になるかも知れない。だがそういう事には疎い男だった。
ソルミの方も同様だ。

しばらく気不味い雰囲気が続いたが、しばらくして一升瓶を抱えたソルミが口を開いた。

「ねぇ?」

「なんだよ」

「あんたずっと、坪内さんの所に居るつもり?」

「・・・・・いや」

前を見ていたソルミが、はっとした顔で橋本の横顔を見た。

「この騒動が、片付いたら田舎に帰るつもりだ」

「あーそう!」

突然、輪をかけて不機嫌になったソルミは、手酌で持ってきた湯のみに酒を注ぐと
グイグイ飲み出し、一気に三杯飲むと目を座らせてクダをまきだした。

「へっ、そうよね!あんたみたいなの商売の役に立たないもん!帰れ帰れ!」

「まぁな、俺もそう思う」

「へっ!負け犬よあんた!そんな簡単に認める所がムカつく!飲みなさいよそら」

「運転中だっつーの」

「何、硬い事言ってんのよ!あたしの酒が飲めねーってか!」

そういうと、ソルミは湯のみの酒を橋本の顔にぶっかけた。
橋本は、怒らない、顔を手で拭った後、不機嫌にただ進行方向を見ている。

「・・・・・何とか言いなさいよ!」

「お前なぁ、そういう無理すんな。嫁の貰い手が無くなるぞ」

「結婚なんかするもんか・・・余裕かましやがって・・・」

「俺は結婚するぜ、あきらめちゃいけねぇなぁ」

「・・・・田舎に良い人いるの?」

妙に、しおらしくなった、おかしな女だ。橋本は苦笑した。

「残念ながらいねぇよ、でもなぁ、まぁ何とかなるさ。」

あたし行かないよ!肥え臭くて、どーしようもない所なんでしょう」

「そんなの所沢だっていっしょだろうが、・・・・それより
おかしな事を言うな、お前。あたしって何だよ
ずうずうしいな、ハハハ・・・・一杯、俺も飲むは、注いでくれ、ハハハ」

「うるさい!」

本音がこぼれて、思わず顔を赤らめるソルミの注いだ酒を受取る橋本は
必死にツッパル幼い少女の顔を見ながら笑った。
(案外こんな女と一緒に暮らすのも悪く無いのかも知れネぇ)
そんな事を、ぼんやり考えていた、だが何とは無しにリアリティは、感じられない。

考えても見るが良い、橋本。
何だかんだ言ってこの子は、都会で生まれて育った子だ。
苦労はして来たかもしれねぇが、俺の生まれた伊賀の山奥のそれこそ百姓しか
いねぇ土地で、知り合いから借りた田んぼにモンペ穿いて泥まみれになってってのは
ピンとくるか??どだい無理な話だ・・・・

そう思い直して橋本は自嘲気味に笑った。

「何笑ってんのよ???」

「どうでも、いいじゃねぇか。もう一杯注げ、付き合ってやるよ。
求婚に関しては謹んでお断りさせてもらうがな」

そう言うとまた橋本は、ゲラゲラ笑った。

「偉そうに・・・ちょっと間違っただけじゃないか、ずうずうしいのはあんたよ
だーーれが、あんたみたいな百姓の嫁になんか・・・」

無愛想に酒をついだ湯のみを渡すと、ソルミは口を尖らせてソッポを向いた。



6月29日(水)00:50 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の16

翌日、徹夜作業で橋本の乗るジープが組みあがった。

「本当は、しばらく、回してもらって
もう一回バラシてってやりたいんだがな・・・」

「まぁ贅沢は言えネェさ、言う気も無い」

そう言うと、橋本はセルを回した、一発で始動
アイドリングの調整作業をする。
アイドリングが安定した所で修理工場を出る、工場の周囲は、一面の大根畑だった。
ニュートラルの状態でアクセルを軽く踏み込む。一気にタコメーターが上弦まで跳ね上がった。

「それなりに高回転仕様になったな、俺好みのジャジャ馬だ」

「何だってー!」

「 俺 好 み の ジ ャ ジ ャ 馬 だ ! 」

マフラーから余計な物を排除したので騒音が半端では無かった。
結局、ボアアップしたとは言うものの、僅か5ミリ程度の拡張だ、それもショートストロークに変更
した事により総排気量としては以前とは大差は無い。しかし平田の経験とカンで組み上げられた
エンジンは快調に駆動していた。

「後は!キャブレターのメインジェットの微調整だ!」

「何だってー!」

「とにかく走ってこい!」

今回の改造は、実はエンジンだけでは無い、橋本の足元を見るとブレーキペダルが
純正の物の隣に自作の物が並んで合わせて二枚ついていた、左が前輪、右が後輪に分けてある。
これは、橋本が頼んだオリジナル使用だった。

大根畑の間の農道を快調に走る。高回転化した事によりトルクの不足が出ないかと心配したが
シリンダーヘッドを、薄く削り圧縮比を若干上げた事により以前よりその点も僅かだが向上していた。
もう少しメインジェトの番数を上げる必要がありそうだが低回転では、それほど問題無し。

まっすぐな、見とうしの効く広い農道に出る。デコボコも余り無い良い感じだ。
一気にアクセルを踏み込むと、以前のオンボロ状態とは比較出来ないレスポンスで
速度が上がった、一旦停止し、前輪駆動を解除した後、再スタート、ミッションを三速に上げ
アクセルをベタ踏みする、中々メーターを振り切る所までは行かない。
舗装された道路なら状況はもう少し違ったろうが、昨日の話し合いで
決まったコースは曲がりくねった林道だ、特に問題は無いだろう、しばらく走った後メインジェットの
番数アップで問題無しと判断した橋本は、砂地のポイントを基点に右ブレーキペダルで後輪をロックさせると
ドリフトしてユーターンを決めた。こちらの方も旨い具合だ、十分戦える。

工場に戻ると、坪内が手を叩いて出迎えた。

「どうじゃ!橋本さん、平田さんの腕は!大したもんじゃろう!」

「あぁ、たいしたもんだ、このオンボロ車、サラブレッドに改造しちまうんだからな」

「まだ、終わってねーよ、どうだい橋本さん」

「ほとんど問題無い、ただやっぱり高回転に、なったとき、もたつくな、
最高速は重要じゃねぇが、もう少し番数を上げてみよう」

「了解、一時間待ってくれ、あぁそれとな、もう一人、ジャジャ馬が来てるぜ」

平田がそう言うと、坪内と一緒に意味ありげに笑った。



6月21日(火)01:50 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の15

ジープのエンジン形式はSV(サイドバルブ)である

フォーサイクルガソリンエンジンの形式としては
最も初期の形である、燃焼室に並列してバルブのスペースが必要な為、圧縮率を効率よく
決定的に上げる事が出来ない構造なのが弱点で、我々の今の生活では、せいぜい古い発電機
や水汲みポンプにその形が残っているぐらいの古い形式である。
エンジンの分解写真等を見ると「バルブは燃焼室の上にある物」と思っている
我々には、非常に不思議な構造として眼に写る。

またまた、比較対象としてドイツのキューベルワーゲンを上げると
ワーゲンはOHV、手元の資料を軽く流して見て見たが、アメリカの後方支援車輌
には圧倒的にサイドバルブのエンジンが多く、対照的にドイツはOHVが比較的多い

つまらないウンチクを並べて申し訳ないが、もう少し続けると
OHV形式は、ドイツ生まれの物で、サイドバルブはアメリカが熟成させた物だ

ハーレイダビッドソンがOHV(ナックルヘッド)を採用したのが1936年
けして、アメリカに技術が無かった訳ではない。
そこには、間違いなくアメリカの思想が存在するはずである。

「ドイツのエンジンは始動に時間が掛かるが、瞬発力があるのが強みだった」

ドイツ戦車エース、オットーカリウスのコメントである。
この瞬発力と言うのは、結局OHVによる圧縮効率に関する優位性に他ならない
おそらく、彼もアメリカの鹵獲車輌のジープ等に乗った経験があるはずだ
恐らく比較されたのはそう言った後方支援車輌が多いだろう、よってこれは言い換えれば
「OHVはSVに比べ瞬発力がある」とも言える。

確かにアメリカが、マシントラブルを物量でカバーした側面は、大きいと思うが
カムシャフトに連結したバルブリフターでバルブを直接押し上げるSV(サイドバルブ)に
比べるとOHVは、DOHC等に比べればまだまだ単純とは言え、燃焼室のてっぺんに
バルブの開閉機構を持っていくための、ロッドなどの中間に入る部品が多数あり
決定的に部品点数が多い、オイル系統が複雑になり暖気に時間がかかる。
また中間に、こういった部品が一点でも入ると言う事は
それだけ調整等に手間がかかると言う事でもある。信頼性が高くなるのはモチロン
部品点数の少ない方だ、戦場でのメンテナンスも、サイドバルブの方が断然やり易いだろう。
OHV(オーバーヘッドバルブ)はピストンの頭を見るだけでも気を使う事になるが
それに対してSVは、蓋自体にはプラグ以外何も無いのだからその作業効率の良さは歴然だ。
第一、壊れない、壊れる原因が少ないのだから当然である。
へたる部品と言って思い浮かぶのはバルブスプリングくらいなものだろう
その上ジープは水冷機構を備えており、砂漠等でもタフな走破性を保ったのも想像に難くない。

キューベルワーゲンも、信頼性は、けして低くは無い
(クロガネ4起は低かったようである、ちなみに形式はOHV)またこう言う種類の車輌にあえて
OHVを採用するあたりに日本人としては、共感する物があることも事実ではある。

だが、しかし。

「どっちに乗る?」

と戦場で問われれば、迷わず筆者はジープを選択する。
フロントラインの兵器なら、迷う物が敗戦国側にも多数あるが、これに関しては
迷いようが無いのである。



6月16日(木)01:54 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の14

「こいつぁかなり厳しいぞ、正直言って、例の誘拐騒ぎが無かったって、
近いうちに、お釈迦になってたぜ多分」

雨漏りする、とある小さい町工場で、例のジープは、エンジンの蓋を開けられていた
「うーっ」とうなり、平田は、さじを投げるように言った。

「それでも、なんとかしてくれ、新しいジープ手に入れとる時間は無いんじゃ」

「そうは、いってもだなぁ見ろこの距離数、地球何週してるんだよ、マイル表示だぞしゃれになんねぇ」

平田が指差した距離計には、地球を15周ほどした数字が、並んでいた。

「シリンダーが元々駄目になっちまってるって事か」

「橋本っさん、そういう事だよ、すっかり磨耗しちまって、圧縮なんざヘロヘロの状態だ
バルブリフターその他もスコスコのヘニャヘニャ・・・

レースに出すのによう!

どうしろって言うんだよこんなガラクタ・・・」

「泣き言、聞く気は無い、なんとかして行けるようにするんじゃ」

「解ってるよう・・・でもこりゃ改めて難問だぜ」

「まぁその辺は、平田さんの才能で、どーんと何とかしてくれや、わしゃ用があるので
ちょっとここから離れる、陣地の様子も見て来なきゃならんしな」

平田が「逃げんなー!」と叫ぶのを尻目に鼻歌を歌いながら
そういうと坪内は、平田と橋本を工場に残して、雨の中、どこかに行ってしまった。

「レースの間だけ、もちゃぁ良い、とにかく動くようにする事だな」

「でもなぁ、ガバガバになっちまった、シリンダーは、元に戻らねぇよ、そこが一番肝心だ」

「ボアアップするしかねぇな、出来るか?」

「設備は、何とかなるんだがね、いかんせんピストンがねぇ・・・」

そういって、腕組みして、平田は考え込んだ

「直径79.4mm×ストローク111.1mm、正規のルートがありゃぁ、使い込んだエンジン用に
若干、径の大きいパーツが純正であるはずなんだが、そんな物は手にはいらねぇ、
まぁしかし、アメ公がそんな物、供給してるかも怪しいしな・・・・。
どうせやるんなら、直径85mmぐらいの、があれば多分排気量だけは
あの野朗のジープと対等に近くなる・・・もっともバルブ関係が、ヘロヘロのフニャフニャだから
圧縮比、上げるとかは危険だ・・・・う゛ーーーーーー思いづかねぇ!」

平田は、スパナを投げつけて椅子に座って頭を抱えた。


水冷4気筒で排気量2,199cc。弁配置SV方式で、54馬力、車体重量1017kg、359851台が世界中にばら撒かれた
このアメリカの物量作戦の象徴のような車輌は、多くの伝説を持っているらしい。
らしいと言うのは、残念な事に、筆者が、お気楽ネット検索で調べても。
具体的なエピソードにお眼に掛かる事が出来なかったからだ。

やはりこの手のウンチクは、本当は、地道に調べるのが本筋である。

「神社の階段を登った」「箱根の山を凄い勢いで越えた」とか具体的で無い物は必ずその手のサイト
にはあるが、実際に見た方のエピソードとしてのコメントは、簡単には見つからない。
それも、全国各地で似たようなエピソードがあるらしく、何だか都市伝説のような構造を持っている部分もある



6月9日(木)11:33 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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