丹下幸平 千石の壷 ~説明~ |
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| あれから一年、丹下幸平も33歳になりましたが作者と違って丹下は変わらないようです。
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千石の壷 2 |
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| 親殺しだった。
最近はどうにも珍しくも無い事件だ。
どうやら祖父の遺産をめぐっての争いで、一月前に親を殺し、逃亡したようなのである。
「まったく、あほな話だ・・・」
そういいながら、丹下はカップラーメンをすすった。そこへドアを叩く音がして耳に山ほどピアスをつけた金髪のチンピラが返事も聞かずにドアを開けた。
「丹下さん?やっぱり暇っすか?」
「おう、九十九里、上がれや」
づかづか上がってくると九十九里と呼ばれた若いチンピラは、丹下が座っている隣の小奇麗だが安物の事務椅子に座り、ノートパソコンでノンビリ横になっている忍者に挨拶してその報道を見ると、おおきなあくびをした。
「この様子じゃ仕事は、ないよねやっぱり・・・」
「まぁな、そんな事より、なぁ九十九里、まったく最近はどうかしてるぜ」 しかめっつらで丹下はニュース映像を指差した。
「そんなこたオッサンでも言えますよ」
「なんだとう?じゃぁお前の見識を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「そういう事を考えずに生きるしか無いっしょ、このご時勢。第一、一応金貸しのあんたがそんな事言える義理じゃねーよ」
「一応ってのはねぇなぁ、最近は結構まともにやってんだ」
「本当っすか」。九十九里は丹下では無くノートパソコンの忍者に聞いた。聞かれた忍者は懐から帳面を取り出し算盤をパチパチはじくと渋い顔をして。
「まぁ半分嘘でござる」。と答えた。
「うるせぇ」。そう言うと丹下はパソコンの電源を落とした、忍者がおどけて煙と共に消えて行くアニメーションを展開しながら消えて行った。
「まぁ、確かにこいつの協力のおかげだがね、俺は金貸しだけれどもだな、世間一般の違法金貸しにくらべりゃ、お前、仏様みたいな経営してるんだ裕福じゃねぇが健全なもんさ」
「だぁから、そんなもん喰って生活してるんでしょうが、貸した金の利息の計算は老後の生活まで上乗せしなきゃ駄目ですよ」。と九十九里は丹下のカップ麺を指差した。
「お前にそんな事言われる筋合いは無い」
余計な事を言われて不機嫌な顔でカップラーメンの汁をズルズルと音をさせながら丹下はすすった。
その時だ、壊れちまってどうしようもない間抜けな音しかしないドアチャイムが音を立てた。
「おっお客かな」
「そんな馬鹿な」
「うるせぇ、あぁどうぞ、お入りになって下さい!」
いそいそとドアを開けるとそこには帽子を目深に被った、若い女がブランド物の鞄を抱えている。
「あの、ここに来ればお金を貸してくれるって聞いたんですが」
「あぁもう!お貸ししますよ!金庫にゃそう大した金は入ってませんがね、貸せる限りは、あなたが何者であろうと連絡先さえ教えてくれりゃうちは、家賃も残さずどーんどんお貸ししてます、まぁどうぞ上がって下さい!ひじょーに狭い所で申し訳ありませんが」
そう言うと、ニヤニヤしている九十九里を奥へやりワンルームの所沢で一番、貧乏臭い金貸しの自宅兼事務所に彼女を招きいれた。 あわてて机の前の椅子の埃をはらうと、不安そうな彼女を座らせ自分も座った。
「で、おいくら必要なんでしょう?」
「あるだけ全部です」
「はぁ??」
そう言うと彼女は、やおら立ちあがりバッグから取り出した物を突きつけた、ピストルだ。撃鉄をおこすと彼女はヒステリックにこうさけんだ。
「お願いです!!お金を貸して下さい!!あるだけ全部!!!」
そう言って彼女は引き金を明らかに混乱した状態からあわてて引いてしまった。
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1月30日(火)13:47 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理
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千石の壷 1 |
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| 所沢駅の前のプロペラ通りから路地を入った所によくある個室ビデオ屋がある。非常に寂しい風俗とも映像娯楽ともつかない例のやつだ。24時間営業でムラムラっつと来たサラリーマンの一時の情欲をリーズナブルなお値段で満足させるべく勤勉に今日も早朝にも関わらず営業していた。そろそろ交代の時間が近づき時計を見た中年のアルバイトが あくびをした時、朝6時にも関わらず客がやって来たのを告げる間抜けなドアチャイムが鳴った。
「いらっしゃいませー」
さてどんなオッサンがやってきたのかと振り返って客の顔を見た中年アルバイトは思わずひきつった。
「たっ丹下さん」 「よう南、元気にしてたかぁ小説の方はどうなってる?」
あわてて、逃げ出そうとした男の襟首を後ろからつかみ、受付の下に並べられた、お安くきもちよーくなれるグッズを蹴り散らかして丹下はカウンターの中に入って来た。
「お前、親御さん泣かせちゃいけねぇよ、この辺りで一人暮らししてるらしいなぁってまぁ『なんとかしてあげてください』っておめぇのお袋さんにしっかり住所は聞いてきたから、もう逃げられねぇぞ」
「借金は返します返しますからちょっと待って」
「いやまてねぇなぁとにかく今月の十万だけでも払ってもらいてぇんだが・・・」
丹下は中年アルバイトをグイグイ引っ張りながら店の中へと入ると安い合板で仕切られた個室の鍵がかかって無い一室を開けた。
オッサンがいる。
「なっなんだぁあんた??」
鍵をかけ忘れ下半身をおっぴろげて、のんびりしていたちょっと頭髪が薄い五十過ぎのサラリーマンが訳も解らずあわてて眼鏡をかけなおした。
「あぁすまねぇわりぃわりぃって・・・ちょっと待て・・・おっさんなんつうビデオを見てるんだ!!」
「あああああアタシが自分の金で合法的に見てるもんに文句言われる筋合いは無いよ!!」
「てめぇいい大人がこんなもんに金出すからいたいけな少年少女が駄目になるんだ説教してやる!!!!」
「あぁぁ勘弁して下さい!!」
その間にアルバイトは逃げ出していた。
「あ しまった、てめぇいいか!つらぁ覚えたからな!!!次にあった時はトクトクと説教してやるから覚悟しとけ!!」
あわてて踵を返した丹下は店の入り口の螺旋階段を駆け下りると、借金男が逃げて行った方角へ走り出した。朝もやの中、怠惰を楽しむ若者達がまどろんでいるのを横目にプロペラ通りを駆け抜ける。ゴミを投げつけながら逃げる借金男、二つ目に投げたコンビニ袋が目前に迫って飛び掛ってきた丹下の顔に当たった。
中に入っていた酔っ払いが吐き出した汚い物が丹下の顔中にかかって思わずひるんだ隙に借金男は放置自転車に乗ると大通りを逃げて行った。
「ちきしょう、あの野郎ふざけやがって・・・」
そこで立ち止まり息を整えた丹下はゲロ塗れで逆方向に急いで走りだした。
駅の反対側のパチンコ屋の駐車場に一台の軽乗用車が止められていた。周りに人がいないのを確認してそっと車に借金男は近づいていった。 なんだか酸っぱい匂いがする。
借金男の目の前に二階の駐車場から丹下が飛び降りてきてあっという間に彼をとりおさえた。
「よう南、時代小説書くなんていって俺をほっといてもらっちゃ困るなぁ、まずは、やることきちんとやってから、時代小説でもなんでもじっくり書くこった。その方がぐっと名作になるだろうぜぇ」
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1月28日(日)20:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理
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