坪内昭三1947 其の22 |
|
|
| 奥多摩湖の湖畔で、二人を待つ少佐の表情は何故か笑顔である。 もうすでに、約束の時間は過ぎている、この上官の酔狂に付き合わされた 伍長は何度も腕時計を見ては少佐に帰りをうながしたが、少佐本人は、のらりくらり と道端の雑草の茎を齧りながらただ笑うのみだった。
半時間が過ぎ、快晴だった空に黒い雲がわいて来た
・・・一雨くるのか、やっかいな事だ。
このチッポケな国との戦争が終わってこのカウボーイは日本人と言う物を 実にじっくりと観た、他の同僚は心の何処かで豹変した侍達に唾を吐きかけながら 楽しんでいたが、しかし彼はそんな同僚にどこか違和感を感じていた。
そんな自分の心に気づいたのは、つい最近の事だ。
・・・俺は多分、何かを探しているのだ。
テキサスの元不良少年が日本人の商売人に深く関ってしまったのは、何故かと 自問自答したとき、ふっとそんな答えが出てきたのである。
・・・多分あれが・・・俺が戦った奴らが、幻で無かった事を確認したいんだ。
故郷とは全く異なる少し濁った色の空を見上げながら少佐は、そんな感傷的な自分に苦笑いした。
・・・どっちにしろ、全て今日で終わる。
雨が降り出した。 橋本と坪内のジープは、林道を駆け上がって行た。
「くーっ降り出したぜ橋本っさん!やっこさん痺れ切らして帰ってなきゃいいんじゃがなぁ!」
「帰りゃしねぇさ、ニヤニヤしながら待ってるだろうぜ」
「小次郎気取ってか?どんなもんかのー?」
軽口を叩きながら、揺れる車内で坪内は雨の中、ボロイ帳面に必死で地形を記録している。
橋本には、確信があった奴は待っている。 ハッキリとした根拠は無い、だがあいつは商売人を気取ってるが 俺と同じ種類の人間だ、こういう種類の酔狂を心底で馬鹿に出来る奴じゃない。
| |
|
|
|
11月14日(月)22:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理
|
|