百万円のツボ 其の14 |
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| 老人は、お湯割りの中の梅干をハシで突付いていた ぐっと一口飲むと
「カストリってのは、要は日本酒作った後に出来る酒粕をもっかい蒸留して出来る焼酎だがね 安いがけして旨いわけじゃない、最近じゃエライ高いもんになって売っとる事もあるようじゃが ワシらが戦後の焼け跡で飲んでたのは、まぁあんな上品なもんじゃぁ無かった」
「まぁ、不味きゃ今の人は買いません」
「で、その男ってのが、中々の男でなぁワシと一緒にガンジガラメみたいな下品な店に 来るだけでもまぁ変な奴だったんじゃが、その時、カストリの話になった」
「飲もうって話になったわけですねで、その男の名前は?」
「さて、それがな・・・思いだせん」
「でも、ツボさま、みたいな人が飲みたいのは中々ないでしょう」
由香が口を挟む
「そうなんじゃよ、ようしっとるなぁお姉さん」
「まぁ年増女のホステスですからね、そんな話になる事もありますもの」
「お店の名刺もらえる?今度おじゃまさせてもらいたいんじゃが♪」
「ハイハイ♪うちにも百万持ってきてね、つぼさまー♪」
「おい、女A、一応、俺達は、この爺さんを、セメント業界の重鎮をだな『拉致』しとるわけだよ そんな事するんじゃねーよ!」
そう言いつつ、笑いながら島木は止めなかった
「ハァ・・メンドクサイですな、正体を現しますか」
そう言うと島木はヒョットコを脱ぎ焼酎をあおった 坪内老人はそれを見て少し笑った後、続けた
「おねぇさんの言うとうり、買ったもんじゃ雰囲気がな、何と言うか出ないんじゃよ 旨いんじゃもの、ふつーーーに、で、その男、何種類かの銘柄を持ってきた後とうとう本物を持ってきおった」
「へぇ」
「それが、すごいんじゃなこれが、田舎の潰れた酒蔵の設備に二級酒つくっとった爺よんで 頭下げて作らせたらしい、ビンまで当時のもんを探して作ってキオッタ、カッカッカ」
「で、そのカストリは不味かったですかご老人?」
「不味かったなぁ!ホッホッホッ!あのバカ、ワザワザ大金かけて不味い物作ってきおったんじゃ、 こんなやつぁ中々おらんよ!カッカッカッ!」
「で、その男の名前は?」
「さて、それがな・・・思いだせん」
「そんなぁ・・・」
「と言うのもな、そうそう二年前から、業界からも夜の街からもパッタリ姿を消したのさ、商売の世界じゃ よくあることじゃから、気にも留めんかったが、取締役をやめてから何処に行ったのかサッパリわからん」
「でもそりゃ話題にぐらいなるでしょう?」
「元々経営者というよりは、職人みたいな男であんまり表には出ん奴じゃったからなぁ・・・その会社も 研究者としてのその男がいなくなったからって経営には余り関係無かったようでなキチンと整理した後 辞めていったようじゃから静かなもんじゃった」
「思いっきり黒じゃないですかそれ」
「そうかな、考えてみればイタズラ好きの実に憎めんいい男じゃったのう・・・・ うーむ警察に事情聴取されておった時は酒が出んかったからなぁ、まぁしょうがないカッカッ」
「ご老人、もったいぶらずに、その男の名前を教えていただけませんか」
「さて、それがな・・・思いだせん」
続く→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02f0454669F3/1/
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5月11日(水)13:17 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 百万円のツボ | 管理
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