丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



2005年5月22日を表示

坪内昭三1947 其の2

闇市に着くと、一件の食い物屋に入る、人が並んでいたが
大声で親父を呼び無理を言って足元のオボツカない橋本を座らせた

「何が喰いたい?橋本さん!何でもいいぞ!わしは、こう見えても羽振りのいい方でな」

「銀シャリと・・味噌汁・・それからタクアン・・・それから・・卵・・・コーンビーフ・・」

「親父!聞いたか?ジャンジャン持ってきてくれ!」

「味噌汁はイナゴ味噌の奴が二件先にあるだけだ、うちにゃぁねぇ!卵は三軒さきだ」

「じゃぁ買ってきてくれ、ワシも腹が減った!」

百円札を二枚わたすとイソイソと親父は買出しに行った

「橋本さん、年は幾つかね?どこから帰って来なすった?」

「・・・今は話しかけネェでくれ・・しゃべると腹にひびく」

「おっとそうか、すまん」

汚い、廃材で出来たテーブルに代用食が一部混ざっていたが、豪華なメニューがずらりと並んだ
橋本はイナゴ味噌の味噌汁に震えながら口をつけると、
親父が気を利かせて買ってきたフスマパンにかじり付く、三口で腹に詰め込んだ

こうなったら止まらない

話しかける坪内を無視してこの世の終わりかと言う勢いでガツガツと喰った

三杯目の丼飯に卵を割ると、テーブルに載せてある「一振り一円」と書かれた塩を
バサバサかけタクアンをガリガリ言わせながら喰い終わってやっと落着いた
出された茶を飲みながらコーンビーフの缶を開ける橋本

「吸うかい」

坪内は紙巻タバコの金鵄(ゴールデンバット)を差し出した

「あぁスマネェ、一服させてもらう」

坪内が懐から取り出したジッポーで火を着ける

「もう一度、聞くがどこから帰って来なすった?」

煙を吐きながら橋本が話した

「・・・・ルソン島だ本土に帰れたのは半年前」

「あぁ南方かね、わしゃ大陸だ、お互い大変だったなぁ」

「まぁな、帰れたのが、俺も今だに信じられん、しかし帰ってからも食い物に
苦労するとは思わなかったぜ」

「仕事が無いのか?なら世話するがどうじゃ?」

「お前一体、何者だ?ヤクザだったら悪いが願い下げだぜ」

「見損なってもらっちゃ困る、これでもちょっと名の売れた商売人よ!」

「やっぱりヤクザじゃねーか」

「違う違う、あんな志の低い奴らと同じにされちゃぁ困る
あくまでわしは商売人!デッカイ夢があるからな」

青アザのついた顔でゲラゲラ笑う坪内を珍しい生き物
を見るような眼で橋本は見ながらコーンビーフを仕上げにむさぼった



5月22日(日)02:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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