丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



2005年5月23日を表示

坪内昭三1947 其の4

二人は12時ちょっと過ぎに現場に着いた
腹を減らした男三人が、お櫃に入った銀シャリを具の少ない味噌汁
とタクアンでバリバリ喰う、橋本が一杯食う間に眞田を除く全員が三杯目を平らげ
あっというまにお櫃は空っぽになった

タバコを一服して、また作業が始まる橋本は体格の一番大きい佐門と倒れた電線を
カッパライに行かされた、大八車に5杯程作業小屋に運ぶと三時
三時の休憩で一服すると直ぐに今度は電線を包む被覆を削る作業になる
その頃には坪内も戻っており作業に参加していた

電線は銅で出来ているが被覆は樹脂で出来ているこれをそのまま持って行っても
買ってはくれるが、剥くのと剥かないのでは値段が段違いなのだ

5時になって、業者のトラックがやって来た、眼一杯色々な金属を放り込むと
現金を坪内は受け取り、本人はジープに乗ってどこかに行ってしまった

残った5人は作業小屋で皮むきを続ける
6時前に眞田は子供に飯を食わせる為に家に帰った、男達はその後と言う段取りらしい

暗くなって、ランタンに火を入れる頃になって眞田が呼びに来た

夜の7時、今日の作業は終わった

それまで、人懐っこい眞田が抜けてしまい喋るに喋れなかった橋本だったが
眞田が色々聞くので適当にしゃべっていた
話が昼前に会ったウェイン少佐の話になった時、年長の平田が反応した

「あぁ、あのイケスカネェアメ公にあったのか・・・ありゃぁ相当な悪だぜ」

「世話になってるんです、あんまりそういう事言うのは、良くないと思います」

眞田が嗜めたが皮肉屋のこの男は、舌を出すだけだ、橋本が続けた

「イケスカネェのは、俺も同意するが、それより気になったのはあのジープだ、
低速だったが微妙にレスポンスが良いエンジン音だった」

「気づいたのか?あんた?あれに?」

「ルソン島で、俺達も鹵獲したジープの世話になってたからな、ありゃ改造してるだろう」

「やっと!話の解る奴が来た!そのとうりだよ若いの!ありゃボアアップしてるんだ!」

「なんでそんな事するんだ?」

話を聞いていた佐門が後ろからにゅっと顔を出すと笑顔でその質問に答えた

「そいつは、今夜、入間の基地に行けば解りもす」

「そうやなぁそういや今日は火曜日やな行ってみるか」

「よし!歓迎会も兼ねて行こうぜ、山崎ケチクサイ事、言うなよ!」

「まぁえぇけど」

「決まりだ!橋本さん、面白いモン見に行こう!」


男達が妙にワクワクしている



5月23日(月)23:21 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の3

朝が来た、子供の声で眼を覚ます時計を見ると7時だ
台所は、大騒ぎである、とにかく動く子供達に混じって4人の男達が朝飯を食っていた
橋本が頭をかいていると、子供が一人鼻をつまんで駆け寄って来た

「おじさんクサーーイ!」

そう言うと、笑いながら食卓に駆けて戻っていく、言われてみて自分の臭いを
嗅いでみた、何とか飯が食えた頃までは体の洗濯もそれなりに
していたつもりだったが、この一週間それもしていなかった
鼻が曲がってしまい自分ではよく解らなかったがまぁそういう物か

「兄さん、さっぱりしてこい!おかみさんが風呂用意してくれてる、あっちや!」

家族が一斉に笑った、眼鏡の男に指差された先にドラム缶の露天風呂がある
飯も食いたかったが、どうにも食卓には入りづらい、とりあえず服を脱ぎドラム缶の側にあった
下駄を履くと風呂に、浸かった

臭いはずだ、みるみるドラム缶の湯が埃と垢で濁っていった

「眞田ちゃん、それじゃ子供達よろしくね」

坪内の女房の声が聞えてきた、もう出かけるようだ

「橋本さん!着替えはそこに置いてあるから!汚れてるのはこの子に渡しといて!」

そう言うと孤児三人と4人の男に見送られ例のジープに乗って赤ん坊を背負って出かけて行った
子供と男三人が出かけるとサッキ、おかみさんに言付けられていた少年が一人、風呂に近づいてきた

「眞田ですよろしく、この服ですね」

「あぁー、悪いな新しい服は、働いて買わせて貰うから捨てちまってくれ」

「そんなぁ、もったいないですよ」

「でも洗濯して貰うのも気がひけるしな」

汚れた軍服を、つまみ上げて少年は笑顔で言った

「気にしないで下さい、僕の仕事ですから」

風呂から上がり新しい服に着替えると
物干し場で、少年が大量の洗い物と格闘していた

「手伝うよ」

「いや、いいですよ午前中は、ゆっくりしてて下さい」

「そんな訳にもいかん、どう言おうが手伝わせてもらうからな」

井戸から水を汲み、タライに水を入れると手際よく石鹸をつけ、まず赤ん坊のオムツから洗いだした

「俺の服は俺が洗うから、こっちにまわしてくれ」

「・・・まいったなぁ、じゃぁよろしくお願いします」

そう言うと眞田は橋本の軍服を手渡した

「ところで、お前ら一体何者だ?」

「僕達の正体かぁ・・・正直、僕にも何と言っていいか」

そう言って少年は苦笑いした。



5月23日(月)15:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


(1/1ページ)