丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



2005年6月18日を表示

暑い Ⅳ

旧来の瓦一枚の重さは、平均約3キログラム。
この重さの理由と言うのが風に対して強くする為なのです、日本家屋が台風に対して強い
秘密は実は、この瓦の「重量」に秘密があると言えます。

しかし反面、固定の為の土まで含めますと、家屋に対する負担は相当な物です。
耐震性を考えた場合、最近の建築に比べ脆弱な素材を使っていた建築法改正前の80年代前半の住宅は
20年が過ぎ、老朽化し、非常に脆い状態である事が多い。

ようは、頭が重すぎるのです、かといって皆さん、なかなか、どうして家立て直せるかと言えば
おいそれと、そうは行きません。

そこで、わが社がご提案するのは、新建材「鬼瓦くん」

「鬼瓦くん」は従来の瓦の約3分の1の重量、お値段も、お求め安い二分の一。
また当社独自の接着剤と、ビス止めによる工法で「風に強く、地震にも強い」タフな住居に
あなたの大切なマイホームを生まれ変わらせてくれます。

ご予算は、建物の補強工事を含めても、立て直す場合の半分以下、カラーバリエーションも12種類

「鬼瓦くん」只今、施工費一割引のキャンペーン中です。



以上が、今、俺の背中のリュックとショルダーバッグに入っている商品に付けられた口上だ。
軽いのは、珍しくも無い。樹脂製品だから。別にどうってこたぁない、もっと軽い商品だってある。
キャンペーンの施工費一割引は、接着剤に程度の低い体に悪ーいのを使うって意味。

まぁいい、それを売るのが、俺の仕事だ、しかしこのカラーバリエーション12色を
全部持たせて営業させるってのは、頭がオカシイとしか言いようが無い。
うちの社長は、体育会系で、そういうのが好きらしいが、お客は、別にそんなこた望んじゃいない。
要は見習い営業に対するシゴキだ、大阪の郊外の住宅地に、何人かマイクロバスで連れて来られて
「鬼瓦君」12枚とパンフレット100部、ペットボトルのお茶を渡されて放り出されたのが
今日の朝10時、最低30件回って、訪問した家から会社に報告しなきゃ帰らせてくれない。
体育会系なんてもんじゃない、こりゃ軍隊の仕打ちだよ。

毎年の恒例行事らしい、ここで日射病になって脱落するのが、半分もいる。

一時間毎に義務化された、定時連絡の三回目を、さっき済ませた。
何とかカントカ、7件回ったが、正直先が思いやられる。

適当にサボリタイ所なんだが、この辺りは住宅ばかりで、コンビニは、おろか喫茶店ですら無い。
渡された、お茶は、とっくに汗になって流れてしまった。

俺は、元々文化系の人間だ、見かけはガッチリしているけれど、こういうのはスマートに行きたいんだよ。
ちきしょー、でも資本主義の末端には、思った以上に理屈なんて許されねぇ・・・働くってのは、つれぇなぁ。

逃げ水が、漂うアスファルトの風景、ここは、きっと日本じゃなくて砂漠なんだ。

そんな、泣き言が、頭の中でグルグル回りだした頃、目の前の階段の上に清々しい白のワンピースを着た
日傘を指した女が見えた。へとへとになってる時の体ってのは虫みたいなもんだ。
俺は訳も無く、その女に向って歩き始めた。

階段の頂上に、たどり付くと、60代の男が女の日傘の下、歩道の縁石の上に座って
休んでいた、顔色が悪い。

「どうされました?」

「教祖さまが、先ほどから、お腹が痛いと申されまして・・・」

オイオイ、教祖って、どういう意味だよ。普通だったら御免こうむる所だが。
答えた女の適度な香水の品のいい香りが、疲れた俺の足を止めてしまった。

「申し訳ありませぬ・・・」

「いやぁ、袖すりあうも何とやらって言いますからね」

女と違って、加齢臭をプンプンさせるインチキ教祖を、俺は背負って歩いていた。
本当に俺はバカだ、文化系なりに体力はある方だが、女の魅力ってのは偉大で、男はチンケな生き物
だってのを、汗をドロドロかきながら、俺は実感した。

三軒の家を回ったが、この二人すでに、この住宅街では有名らしく、どこも相手にしてくれない。
不味いな、俺まで仲間と思われそうだ。歩く最中、女と教祖にインチキ宗教の話を延々とされた。
キリスト教系の新興宗教でまだ法人資格も持って無いようだが、疲れて無くてもどうでも良いと思える
電波系の宗教だった。

「よって、イエス・キリストは日本人であり、日本に流れ着いたマグダラのマリアが
教祖様のご先祖である事が証明出来るのです」

力強く、あんたみたいな美人が、そんな事言うな、世の中が終わりそうな気分になってくる。
そう思いながらも、俺は何とかこの苦行に耐え、笑顔で対応していた。

案外、俺、営業向きなのかもしれないな・・・
それにしたって、限界だ、さっきお礼に飲まされた、魔法瓶に入った臭くてクソ不味い茶色い水は
二度と飲みたくない、そんな時、林の、そばに自動販売機が設置されているのが見えた。
木陰もある「あそこで休みましょう」この辺で俺もオサラバだ、やってられねぇからな。

自動販売機に、120円を入れて、炭酸飲料のボタンを押す。
二人はしきりに例の水を薦めたが、モチロン断わった、あんなもん配ってる間は駄目だよインチキ宗教め
何となく哀れな感じもしたが、同情出来る立場じゃない。おれは炭酸飲料を一気にあおった。

「すいません、ティッシュを、お持ちですか・・・」

まぁな、教祖だって人間だって事か、申し訳なさそうな顔の女の眼を見ないように俺は、街でもらった
サラ金の宣伝入りのポケットティッシュを渡してやった。

二人が、林に入りしばらくして、ブリブリと下品な音と共に、嗅いだ覚えのある臭いが漂って来て
俺は飲まされた「御聖水」と炭酸飲料を全部、目の前に吐き出した。




僧正の野糞遊ばす日傘哉(一茶)


お後がよろしいようで・・・・次も「暑い」で行きます。


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6月18日(土)16:37 | トラックバック(0) | コメント(0) | お題でワンシーン | 管理


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