丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



2005年6月29日を表示

坪内昭三1947 其の17

クロガネ4起に押し込まれた二人は、所沢から歌舞伎町に向っていた。
ソルミをネグラに帰してやるためである。
おかしな気を使われたが橋本にはそんな気は無い。

と言えば嘘になるかも知れない。だがそういう事には疎い男だった。
ソルミの方も同様だ。

しばらく気不味い雰囲気が続いたが、しばらくして一升瓶を抱えたソルミが口を開いた。

「ねぇ?」

「なんだよ」

「あんたずっと、坪内さんの所に居るつもり?」

「・・・・・いや」

前を見ていたソルミが、はっとした顔で橋本の横顔を見た。

「この騒動が、片付いたら田舎に帰るつもりだ」

「あーそう!」

突然、輪をかけて不機嫌になったソルミは、手酌で持ってきた湯のみに酒を注ぐと
グイグイ飲み出し、一気に三杯飲むと目を座らせてクダをまきだした。

「へっ、そうよね!あんたみたいなの商売の役に立たないもん!帰れ帰れ!」

「まぁな、俺もそう思う」

「へっ!負け犬よあんた!そんな簡単に認める所がムカつく!飲みなさいよそら」

「運転中だっつーの」

「何、硬い事言ってんのよ!あたしの酒が飲めねーってか!」

そういうと、ソルミは湯のみの酒を橋本の顔にぶっかけた。
橋本は、怒らない、顔を手で拭った後、不機嫌にただ進行方向を見ている。

「・・・・・何とか言いなさいよ!」

「お前なぁ、そういう無理すんな。嫁の貰い手が無くなるぞ」

「結婚なんかするもんか・・・余裕かましやがって・・・」

「俺は結婚するぜ、あきらめちゃいけねぇなぁ」

「・・・・田舎に良い人いるの?」

妙に、しおらしくなった、おかしな女だ。橋本は苦笑した。

「残念ながらいねぇよ、でもなぁ、まぁ何とかなるさ。」

あたし行かないよ!肥え臭くて、どーしようもない所なんでしょう」

「そんなの所沢だっていっしょだろうが、・・・・それより
おかしな事を言うな、お前。あたしって何だよ
ずうずうしいな、ハハハ・・・・一杯、俺も飲むは、注いでくれ、ハハハ」

「うるさい!」

本音がこぼれて、思わず顔を赤らめるソルミの注いだ酒を受取る橋本は
必死にツッパル幼い少女の顔を見ながら笑った。
(案外こんな女と一緒に暮らすのも悪く無いのかも知れネぇ)
そんな事を、ぼんやり考えていた、だが何とは無しにリアリティは、感じられない。

考えても見るが良い、橋本。
何だかんだ言ってこの子は、都会で生まれて育った子だ。
苦労はして来たかもしれねぇが、俺の生まれた伊賀の山奥のそれこそ百姓しか
いねぇ土地で、知り合いから借りた田んぼにモンペ穿いて泥まみれになってってのは
ピンとくるか??どだい無理な話だ・・・・

そう思い直して橋本は自嘲気味に笑った。

「何笑ってんのよ???」

「どうでも、いいじゃねぇか。もう一杯注げ、付き合ってやるよ。
求婚に関しては謹んでお断りさせてもらうがな」

そう言うとまた橋本は、ゲラゲラ笑った。

「偉そうに・・・ちょっと間違っただけじゃないか、ずうずうしいのはあんたよ
だーーれが、あんたみたいな百姓の嫁になんか・・・」

無愛想に酒をついだ湯のみを渡すと、ソルミは口を尖らせてソッポを向いた。



6月29日(水)00:50 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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