坪内昭三1947 其の21 |
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| 黄金地帯の陣地の中に、もう迷いは無かった。 橋本を止める人間は誰もいない、ただ皆が緊張しながら彼の行動を見守っていた。
「もっときつく縛ってくれ」
「しかし、これ以上きつくすると血が止まりもす」
「いいから、やってくれ」
平田が、スクラップから切り出した鉄板を曲げた補助具を、佐門が、うっすらと血の滲む 橋本の右手を覆うように縛り付けていた、何とか親指は生きている、他の指は動かない状態だが これで取り合えずはメインのシフト操作が可能になる。ハンドルもどうにか握れそうだ痛みはするが・・・ 橋本は、ジープに乗り込むとシフトの感触を確認した、微妙な操作は正直難しくなったが それより問題は、メインのシフトの下にあるフロントドライブの操作だ。 ウェイン少佐もフルにシフト操作してくるだろう、林道のレースとは言え四輪駆動で固定する 訳には行かない、走行中の操作は難しい・・・
諦めて、改造の際、取り付けた戦闘機のシートベルトを固定していると。 縄と三枚の座布団を持って、緊張で顔を強張らせた坪内がやって来た。 後ろで坪内の家族が心配そうな顔で見ていた。
「何だよ、まだ止める気じゃねぇだろうな」
「止める気なんざ無いわい!わしゃあんた踏み抜く、ただあんた一人にゃ行かせネェ!佐門!」
佐門が、思わず驚いた。この男が敬称を付けずに自分を呼んだのが始めてだったからだ。
「ワシを助手席に縛り付けてくれ」
「親方、何を考えておられるんじゃ!」
「やめとけ、お前まで怪我させる気はねぇ」
「うるさい!わしゃあんたの雇い主じゃ、いいか?勘違いするなよこのジープの持ち主は誰じゃ? 言う事聞かないんなら降りてもらう」
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7月29日(金)22:41 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理
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