丹下幸平@窃盗犯108号
 
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2007年1月を表示

千石の壷 3

「まったく、ここんところロクな客がこねぇと思ってたら極めつけが来ちまったなぁ・・・嫌になって来るぜ」

 そういって丹下は事務机に腰を降ろして突然やって来た、いわく付きの美女を呆れた顔でしげしげと見た。

「本当ですねぇ、商売替えでもしてみます?」。九十九里は部屋の隅に転がるS&Wを拾うと懐に入れ銃の持ち主の彼女のそばに近づき、その目を見てにっこり笑った。

「冗談、言うなよ・・・しっかしまいったなぁ、個人的にゃぁあんまり警察とはお付き合いしたくねぇんだが」

 警察の事情聴取なんざ表家業に関しても裏家業に関しても良い事なんざまるで無い。正直、人殺しをしてるかもしれないって物騒な知り合いもいないわけじゃ無いがこの女は今現在のワイドショウのネタだ。そういう輩に普通という言い方はおかしな話だが、そういった丹下の知り合いとは全く別の人間だ。へたな扱いをしたらどんな目に会うか解ったもんじゃ無いだろう。

「あんたもう暴れないね、いい所に来たよ、この人は悪いようにはしないから安心しな」

 女の扱いに慣れた九十九里は、やさしくその手を取ると手錠を解いてやった。

「おい!何、勝手な事やってんだ?親殺しなんぞに同情すると思ってんのか?俺が?」

「私はやってない!!!」

「あぁそう言うんですよ、やっちゃった人は、みーんな」

 丹下は冷ややかにそう言うと何事も無かったかのように、カップ麺の残りの汁を、すすった。それを聞き彼女が黙ってうつむくと、穴が開いて風通しの良くなったノートパソコンが彼女の方を向きウェブカメラが彼女の表情に焦点を合わせた。

「にしたってどうするでござる、警察に素直に連れて行くでござるか?」

「それも避けたいのは避けたいんだよなぁ参った実際・・・」

 丹下はコンビニで貰った割り箸をボキリと折るとカップに押し込んでゴミ箱に放り込んで、頭をゴシゴシ掻いた。

「鮎川さんでござるね、どこで、この金貸しの話を聞いたんでござるか?」

「・・・・なんなんですか?このパソコン?」

「いやその、説明すると長くなるし、説明するわけにもいかねぇんだ気にするな」

 めんどくさそうに彼女の顔を見て丹下は困った。美人の涙くらい信用出来ない物が無い事は、もうよーく知ってる年になったが、やっぱり得意な分野かと聞かれりゃぁ得意とは言えない。

「タクシーの運転手さんに・・・自分も借りてるけど安心だって」

「そいつ、鶏ガラみたいに痩せた目のニヤケたオッサンだったろう」

 以前、高田の馬場の犬猫病院で内臓取るって脅した事がある どうしようもない客の一人だった。あいかわらず無責任な脳天気野朗だったが、まぁたやっかいな事をしてくれたもんだ。なるほどあいつだったらこの女の正体も知らずにそう言う事を平気で言いそうである。そう思って丹下は舌うちした。

「ちょっと表に出てる情報をざっと調べてみたんでござるが・・・鮎川さん良いでござるかな?」

「???・・・はい・・・???」
 



1月31日(水)15:34 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 2

 親殺しだった。

 最近はどうにも珍しくも無い事件だ。

 どうやら祖父の遺産をめぐっての争いで、一月前に親を殺し、逃亡したようなのである。

「まったく、あほな話だ・・・」

 そういいながら、丹下はカップラーメンをすすった。そこへドアを叩く音がして耳に山ほどピアスをつけた金髪のチンピラが返事も聞かずにドアを開けた。

「丹下さん?やっぱり暇っすか?」

「おう、九十九里、上がれや」

 づかづか上がってくると九十九里と呼ばれた若いチンピラは、丹下が座っている隣の小奇麗だが安物の事務椅子に座り、ノートパソコンでノンビリ横になっている忍者に挨拶してその報道を見ると、おおきなあくびをした。

「この様子じゃ仕事は、ないよねやっぱり・・・」

「まぁな、そんな事より、なぁ九十九里、まったく最近はどうかしてるぜ」
 
 しかめっつらで丹下はニュース映像を指差した。

「そんなこたオッサンでも言えますよ」

「なんだとう?じゃぁお前の見識を聞かせてもらおうじゃねぇか」

「そういう事を考えずに生きるしか無いっしょ、このご時勢。第一、一応金貸しのあんたがそんな事言える義理じゃねーよ」

「一応ってのはねぇなぁ、最近は結構まともにやってんだ」

「本当っすか」。九十九里は丹下では無くノートパソコンの忍者に聞いた。聞かれた忍者は懐から帳面を取り出し算盤をパチパチはじくと渋い顔をして。

「まぁ半分嘘でござる」。と答えた。

「うるせぇ」。そう言うと丹下はパソコンの電源を落とした、忍者がおどけて煙と共に消えて行くアニメーションを展開しながら消えて行った。

「まぁ、確かにこいつの協力のおかげだがね、俺は金貸しだけれどもだな、世間一般の違法金貸しにくらべりゃ、お前、仏様みたいな経営してるんだ裕福じゃねぇが健全なもんさ」

「だぁから、そんなもん喰って生活してるんでしょうが、貸した金の利息の計算は老後の生活まで上乗せしなきゃ駄目ですよ」。と九十九里は丹下のカップ麺を指差した。

「お前にそんな事言われる筋合いは無い」

 余計な事を言われて不機嫌な顔でカップラーメンの汁をズルズルと音をさせながら丹下はすすった。

 その時だ、壊れちまってどうしようもない間抜けな音しかしないドアチャイムが音を立てた。

「おっお客かな」

「そんな馬鹿な」

「うるせぇ、あぁどうぞ、お入りになって下さい!」

 いそいそとドアを開けるとそこには帽子を目深に被った、若い女がブランド物の鞄を抱えている。

「あの、ここに来ればお金を貸してくれるって聞いたんですが」

「あぁもう!お貸ししますよ!金庫にゃそう大した金は入ってませんがね、貸せる限りは、あなたが何者であろうと連絡先さえ教えてくれりゃうちは、家賃も残さずどーんどんお貸ししてます、まぁどうぞ上がって下さい!ひじょーに狭い所で申し訳ありませんが」

 そう言うと、ニヤニヤしている九十九里を奥へやりワンルームの所沢で一番、貧乏臭い金貸しの自宅兼事務所に彼女を招きいれた。
 あわてて机の前の椅子の埃をはらうと、不安そうな彼女を座らせ自分も座った。

「で、おいくら必要なんでしょう?」

「あるだけ全部です」

「はぁ??」

 そう言うと彼女は、やおら立ちあがりバッグから取り出した物を突きつけた、ピストルだ。撃鉄をおこすと彼女はヒステリックにこうさけんだ。

「お願いです!!お金を貸して下さい!!あるだけ全部!!!」

 そう言って彼女は引き金を明らかに混乱した状態からあわてて引いてしまった。



1月30日(火)13:47 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 1

 所沢駅の前のプロペラ通りから路地を入った所によくある個室ビデオ屋がある。非常に寂しい風俗とも映像娯楽ともつかない例のやつだ。24時間営業でムラムラっつと来たサラリーマンの一時の情欲をリーズナブルなお値段で満足させるべく勤勉に今日も早朝にも関わらず営業していた。そろそろ交代の時間が近づき時計を見た中年のアルバイトが あくびをした時、朝6時にも関わらず客がやって来たのを告げる間抜けなドアチャイムが鳴った。

「いらっしゃいませー」

 さてどんなオッサンがやってきたのかと振り返って客の顔を見た中年アルバイトは思わずひきつった。

「たっ丹下さん」
「よう南、元気にしてたかぁ小説の方はどうなってる?」

 あわてて、逃げ出そうとした男の襟首を後ろからつかみ、受付の下に並べられた、お安くきもちよーくなれるグッズを蹴り散らかして丹下はカウンターの中に入って来た。

「お前、親御さん泣かせちゃいけねぇよ、この辺りで一人暮らししてるらしいなぁってまぁ『なんとかしてあげてください』っておめぇのお袋さんにしっかり住所は聞いてきたから、もう逃げられねぇぞ」

「借金は返します返しますからちょっと待って」

「いやまてねぇなぁとにかく今月の十万だけでも払ってもらいてぇんだが・・・」

 丹下は中年アルバイトをグイグイ引っ張りながら店の中へと入ると安い合板で仕切られた個室の鍵がかかって無い一室を開けた。

 オッサンがいる。

「なっなんだぁあんた??」

 鍵をかけ忘れ下半身をおっぴろげて、のんびりしていたちょっと頭髪が薄い五十過ぎのサラリーマンが訳も解らずあわてて眼鏡をかけなおした。

「あぁすまねぇわりぃわりぃって・・・ちょっと待て・・・

おっさんなんつうビデオを見てるんだ!!



「あああああアタシが自分の金で合法的に見てるもんに文句言われる筋合いは無いよ!!」

「てめぇいい大人がこんなもんに金出すからいたいけな少年少女が駄目になるんだ説教してやる!!!!」

「あぁぁ勘弁して下さい!!」

 その間にアルバイトは逃げ出していた。

「あ しまった、てめぇいいか!つらぁ覚えたからな!!!次にあった時はトクトクと説教してやるから覚悟しとけ!!」

 あわてて踵を返した丹下は店の入り口の螺旋階段を駆け下りると、借金男が逃げて行った方角へ走り出した。朝もやの中、怠惰を楽しむ若者達がまどろんでいるのを横目にプロペラ通りを駆け抜ける。ゴミを投げつけながら逃げる借金男、二つ目に投げたコンビニ袋が目前に迫って飛び掛ってきた丹下の顔に当たった。

 中に入っていた酔っ払いが吐き出した汚い物が丹下の顔中にかかって思わずひるんだ隙に借金男は放置自転車に乗ると大通りを逃げて行った。

「ちきしょう、あの野郎ふざけやがって・・・」

 そこで立ち止まり息を整えた丹下はゲロ塗れで逆方向に急いで走りだした。



 駅の反対側のパチンコ屋の駐車場に一台の軽乗用車が止められていた。周りに人がいないのを確認してそっと車に借金男は近づいていった。
 なんだか酸っぱい匂いがする。

 借金男の目の前に二階の駐車場から丹下が飛び降りてきてあっという間に彼をとりおさえた。

「よう南、時代小説書くなんていって俺をほっといてもらっちゃ困るなぁ、まずは、やることきちんとやってから、時代小説でもなんでもじっくり書くこった。その方がぐっと名作になるだろうぜぇ」



1月28日(日)20:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

坪内昭三1947 目次

其の1→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02Bb454666E2/1/
其の2→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02b245466AA2/1/
其の3→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02az45466918/1/
其の4→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02oB45466ACA/1/
其の5→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02q445466AD3/1/
其の6→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02v345466AE5/1/
其の7→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc021z45466AF6/1/
其の8→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc028J45466B0B/1/
其の9→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02DL45466B1A/1/
其の10→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02IR45466B29/1/
其の11→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02ax45466B61/1/
其の12→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02lt45466B85/1/
其の13→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02hj45466AB5/1/
其の14→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02Ip45466BF0/1/
其の15→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02cB45466C2D/1/
其の16→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Xz45466D8F/1/
其の17→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Vh45466E6B/1/
其の18→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Bg45466EFE/1/
其の19→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03TF45466F3A/1/
其の20→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03AT45466FC7/1/
其の21→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03AT45467169/1/
其の22→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04XF45467D4A/1/
其の23→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04sf45467D92/1/
其の24→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04dQ45467E31/1/
其の25→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08lx45B8C84A/1/
其の26→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08VR45B99127/1/
エピローグ→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08DR45BB14AC/1/



1月27日(土)18:20 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 エピローグ

 それから数日が過ぎたある日、橋本は傷をいやしていた坪内の借りていた借家で荷物をまとめていた。もっとも最初ここに来た日に着ていた旧軍の軍服とその後買い揃えた洗面道具と僅かな現金以外持って行ける物など何も無かったが。
 昨日まで寝ていた寝床の枕元には傷ついた手でどうやったのかは解らないが例の坪内が持ってきた洋裁の仕事がきちんと仕上げられ、畳まれている。

 ソルミの事は、どうしようか迷った。一緒に帰ってくれないかと頼めば案外素直についてくるかもしれない。これからの橋本にとってはしっくり嵌らない「平和な世界」との彼女は潤滑油になってくれるだろう。しかし田舎の風景を思い出すと何故かそれは酷な事のように思われた。

 苦労するのは、あいつだ。

 それでソルミとは顔を合わせずに出て行く事に決めた。

 少々男らしく無い。そんな風にも思ったが、そんな選択をするのが橋本だった。

 ズダ袋に持ち物を収めると今朝ソルミが取り替えてくれた右手にしっかり巻かれた真っ白な包帯を少しの間だけ見つめた。

 台所で子供をあやしながらうつらうつら居眠りをしていたお菊の目を盗み、そっと橋本は家を出た。



 外は快晴だった、散歩に行くような足取りで橋本は黄金地帯へと歩いていった。近くまで行くと米軍の戦闘車両を運ぶ巨大なトラックいわゆる「ドラゴンワゴン」が見えてきた。
 とんでもなく馬鹿でかいそのトラックの背中には錆びだらけの例の戦車がのっていた。
 間近にたどり着くと作業するMPのそばで佐門がそれをいかにもおしそうな顔で見ている。

「どうなるんだこいつ」。橋本が後ろから声をかけた。
「没収ですわい、他の屑鉄は整地作業っちゅう名目でわしらのもんになることになりもうしたが、こいつだけは物騒だからアメリカに持って行くらしいですたい」
「向こうに行ってどうなるのかね」
「うまく行けば博物館入りだそうですたい」
「そうか・・・残ってくれりゃいいんだがな・・・」
「ところで橋本どん、どちらに」
「ちょいと散歩さ」

 そうとぼけると、鈍感なこの九州男児に笑顔で見送られながらその場を離れていった。

 全ての仲間達が真っ黒になって働いていた。終りなど無いのだ、苦しかろうと悲しかろうと、嬉しかろうと全ての人間は形はどうあれ働きつづける。そのことに関して言えば橋本とて同じ事だ。ただここは自分が根をおろす場所では無い、そう思った。そのことを思うと心の中に田舎の親父の背中が見えてくる。
 第一、あの程度の現実とは関係が無い馬鹿騒ぎを恩に着せて、坪内のやっかいになるような程度の低い考えはどう逆さにしたって橋本という人間には持てなかった。

 これでいい。

 潰されなかった片方の目でしばらく、懸命に土を掘る仲間達を少し離れた位置からしばらく見つめ。そう割り切った橋本は清々しい顔をして、そっと黄金地帯を後にした。







 入れ替わりで借家に帰ったソルミは、仕上げられた洋服を見て事態をすぐに察した。橋本の寝床のあった奥の部屋に素早く入り押入れを開けるとそこには皮の小さな旅行鞄が用意されていた。

 鞄をつかむとソルミは、迷わず駆け出した。

 絶対逃がさない。

 そう旅行鞄を用意した時から彼女は心に決めていた。



1月27日(土)18:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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