丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



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坪内昭三1947 其の5

土手の向こうから、女の悲鳴が聞こえて来た
慌てて、車を降り駆けつけると、女がMP三人に取り囲まれていた
草叢に引きずり込もうとMPの一人が女の手を掴んだ

「何しとるんじゃぁ!」

以外な事に、坪内が橋本より先に飛び出した、以外と熱血漢だ
三人はそれに気づくと身構えた、正面にいた男と取っ組み合いになる坪内
何とか投げ飛ばしたが、二人目のMPはレスリング経験者だった構えが違う
後ろから組み付かれて捻じ伏せられてしまった、坪内の迷いの無い行動に感心しながら
橋本は女の手を掴んでいる男の前に駆けつけた、顔面に拳を入れようとしたが
空を切った、チンピラMPとは言え腐っても軍人、ヤクザとは違う

不覚にも殴られてしまった、吹っ飛ぶ橋本

「橋本っさん!」

「サルリョ ジュセヨ!」

朝鮮の言葉だ、ちょっとビックリしながら立ち上がる橋本
女を押さえ込もうとする、MPをひっぺがすと今度はコッチの番だ殴りかかってくるのを
今度は背負い投げで返してやった、坪内を捻じ伏せていたMPがシットとかファックとか
言いながら立ち上がってもう一人と同時に飛び掛って来た何とか一人に足払いをかけて
倒した所で橋本は叫んだ

「何やってんだ!坪内逃げるぞ!」

「合点!」

坪内が慌てて女をジープまで連れていった
もう一人が襲い掛かってくる、腹に一発拳を入れるが効かない、不味い
橋本はもう一回吹っ飛ばされてしまった、動けない、アゴに決まってしまった
軽い脳震盪だ、そこへ坪内がジープで飛び込んできた、慌ててMP達が逃げ出した
ジープが止まったのは橋本の頭を轢く1m手前だ、橋本が、ふらつきながら、ジープに乗り込むと
三人は一目散に逃げていった


帰り道、女は助けられたと言うのにふて腐れていた服装が派手だが
さっきの一件で何箇所か破れていた

「日本人に助けられても、嬉しくないよ」

日本語は達者なようだが、えらい言い様だ、坪内は慣れたもんで、気にしていないが
橋本は青アザのついた顔を触りながら気分の悪そうな顔をした

「じゃぁあそこで、MP共に輪姦されてた方がマシだったてのか?礼ぐらい言えよバカ女」

「まぁまぁ橋本っさん、気にしない、気にしない朝鮮人の中にゃ
日本人は悪党にしか見えん奴もいるからな、でまぁ礼はいいが
名前ぐらい言ったらどうだいお嬢さん、わしは坪内、この人は橋本」

「リ・ソルミ・・・・」

「・・・・・・ふーーん、良い名前だな」

橋本が後部座席からそう言うと、女は向こうを向いて、またふて腐れた

「お前ら、朝鮮人は大体、逆恨みしすぎなんだよ、なんでぇ助けられて礼を言わないのが
お前ん所の国の流儀か?」

「やめときなって橋本さん」

「私が見た、日本人は皆悪党よ、朝鮮人をコキツカウ事しか考えて無い奴ばっか」

「だからって、パンパンにまで落ちるのは、お前の勝手さ」

そう言うと、ソルミは思いっきりグーで橋本を殴った、鼻血が吹き出した

「てめぇ!何しやがる!」

「あぁあぁあぁ、今のはあんたが悪いよ」

「売春婦と一緒にすんな!私は女給さ!体なんか売っちゃいない!」

そう言うとソルミは助手席から橋本に掴みかかった

「うるせぇ!どうせ怪しい店の女給だろーが!」

「殺す!」

「車の上で喧嘩すんのは止めてくれ!危なくてしょうがない!」

橋本は、口では返していたが、一方的に女に殴られていた



5月24日(火)14:29 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の4

二人は12時ちょっと過ぎに現場に着いた
腹を減らした男三人が、お櫃に入った銀シャリを具の少ない味噌汁
とタクアンでバリバリ喰う、橋本が一杯食う間に眞田を除く全員が三杯目を平らげ
あっというまにお櫃は空っぽになった

タバコを一服して、また作業が始まる橋本は体格の一番大きい佐門と倒れた電線を
カッパライに行かされた、大八車に5杯程作業小屋に運ぶと三時
三時の休憩で一服すると直ぐに今度は電線を包む被覆を削る作業になる
その頃には坪内も戻っており作業に参加していた

電線は銅で出来ているが被覆は樹脂で出来ているこれをそのまま持って行っても
買ってはくれるが、剥くのと剥かないのでは値段が段違いなのだ

5時になって、業者のトラックがやって来た、眼一杯色々な金属を放り込むと
現金を坪内は受け取り、本人はジープに乗ってどこかに行ってしまった

残った5人は作業小屋で皮むきを続ける
6時前に眞田は子供に飯を食わせる為に家に帰った、男達はその後と言う段取りらしい

暗くなって、ランタンに火を入れる頃になって眞田が呼びに来た

夜の7時、今日の作業は終わった

それまで、人懐っこい眞田が抜けてしまい喋るに喋れなかった橋本だったが
眞田が色々聞くので適当にしゃべっていた
話が昼前に会ったウェイン少佐の話になった時、年長の平田が反応した

「あぁ、あのイケスカネェアメ公にあったのか・・・ありゃぁ相当な悪だぜ」

「世話になってるんです、あんまりそういう事言うのは、良くないと思います」

眞田が嗜めたが皮肉屋のこの男は、舌を出すだけだ、橋本が続けた

「イケスカネェのは、俺も同意するが、それより気になったのはあのジープだ、
低速だったが微妙にレスポンスが良いエンジン音だった」

「気づいたのか?あんた?あれに?」

「ルソン島で、俺達も鹵獲したジープの世話になってたからな、ありゃ改造してるだろう」

「やっと!話の解る奴が来た!そのとうりだよ若いの!ありゃボアアップしてるんだ!」

「なんでそんな事するんだ?」

話を聞いていた佐門が後ろからにゅっと顔を出すと笑顔でその質問に答えた

「そいつは、今夜、入間の基地に行けば解りもす」

「そうやなぁそういや今日は火曜日やな行ってみるか」

「よし!歓迎会も兼ねて行こうぜ、山崎ケチクサイ事、言うなよ!」

「まぁえぇけど」

「決まりだ!橋本さん、面白いモン見に行こう!」


男達が妙にワクワクしている



5月23日(月)23:21 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の3

朝が来た、子供の声で眼を覚ます時計を見ると7時だ
台所は、大騒ぎである、とにかく動く子供達に混じって4人の男達が朝飯を食っていた
橋本が頭をかいていると、子供が一人鼻をつまんで駆け寄って来た

「おじさんクサーーイ!」

そう言うと、笑いながら食卓に駆けて戻っていく、言われてみて自分の臭いを
嗅いでみた、何とか飯が食えた頃までは体の洗濯もそれなりに
していたつもりだったが、この一週間それもしていなかった
鼻が曲がってしまい自分ではよく解らなかったがまぁそういう物か

「兄さん、さっぱりしてこい!おかみさんが風呂用意してくれてる、あっちや!」

家族が一斉に笑った、眼鏡の男に指差された先にドラム缶の露天風呂がある
飯も食いたかったが、どうにも食卓には入りづらい、とりあえず服を脱ぎドラム缶の側にあった
下駄を履くと風呂に、浸かった

臭いはずだ、みるみるドラム缶の湯が埃と垢で濁っていった

「眞田ちゃん、それじゃ子供達よろしくね」

坪内の女房の声が聞えてきた、もう出かけるようだ

「橋本さん!着替えはそこに置いてあるから!汚れてるのはこの子に渡しといて!」

そう言うと孤児三人と4人の男に見送られ例のジープに乗って赤ん坊を背負って出かけて行った
子供と男三人が出かけるとサッキ、おかみさんに言付けられていた少年が一人、風呂に近づいてきた

「眞田ですよろしく、この服ですね」

「あぁー、悪いな新しい服は、働いて買わせて貰うから捨てちまってくれ」

「そんなぁ、もったいないですよ」

「でも洗濯して貰うのも気がひけるしな」

汚れた軍服を、つまみ上げて少年は笑顔で言った

「気にしないで下さい、僕の仕事ですから」

風呂から上がり新しい服に着替えると
物干し場で、少年が大量の洗い物と格闘していた

「手伝うよ」

「いや、いいですよ午前中は、ゆっくりしてて下さい」

「そんな訳にもいかん、どう言おうが手伝わせてもらうからな」

井戸から水を汲み、タライに水を入れると手際よく石鹸をつけ、まず赤ん坊のオムツから洗いだした

「俺の服は俺が洗うから、こっちにまわしてくれ」

「・・・まいったなぁ、じゃぁよろしくお願いします」

そう言うと眞田は橋本の軍服を手渡した

「ところで、お前ら一体何者だ?」

「僕達の正体かぁ・・・正直、僕にも何と言っていいか」

そう言って少年は苦笑いした。



5月23日(月)15:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の2

闇市に着くと、一件の食い物屋に入る、人が並んでいたが
大声で親父を呼び無理を言って足元のオボツカない橋本を座らせた

「何が喰いたい?橋本さん!何でもいいぞ!わしは、こう見えても羽振りのいい方でな」

「銀シャリと・・味噌汁・・それからタクアン・・・それから・・卵・・・コーンビーフ・・」

「親父!聞いたか?ジャンジャン持ってきてくれ!」

「味噌汁はイナゴ味噌の奴が二件先にあるだけだ、うちにゃぁねぇ!卵は三軒さきだ」

「じゃぁ買ってきてくれ、ワシも腹が減った!」

百円札を二枚わたすとイソイソと親父は買出しに行った

「橋本さん、年は幾つかね?どこから帰って来なすった?」

「・・・今は話しかけネェでくれ・・しゃべると腹にひびく」

「おっとそうか、すまん」

汚い、廃材で出来たテーブルに代用食が一部混ざっていたが、豪華なメニューがずらりと並んだ
橋本はイナゴ味噌の味噌汁に震えながら口をつけると、
親父が気を利かせて買ってきたフスマパンにかじり付く、三口で腹に詰め込んだ

こうなったら止まらない

話しかける坪内を無視してこの世の終わりかと言う勢いでガツガツと喰った

三杯目の丼飯に卵を割ると、テーブルに載せてある「一振り一円」と書かれた塩を
バサバサかけタクアンをガリガリ言わせながら喰い終わってやっと落着いた
出された茶を飲みながらコーンビーフの缶を開ける橋本

「吸うかい」

坪内は紙巻タバコの金鵄(ゴールデンバット)を差し出した

「あぁスマネェ、一服させてもらう」

坪内が懐から取り出したジッポーで火を着ける

「もう一度、聞くがどこから帰って来なすった?」

煙を吐きながら橋本が話した

「・・・・ルソン島だ本土に帰れたのは半年前」

「あぁ南方かね、わしゃ大陸だ、お互い大変だったなぁ」

「まぁな、帰れたのが、俺も今だに信じられん、しかし帰ってからも食い物に
苦労するとは思わなかったぜ」

「仕事が無いのか?なら世話するがどうじゃ?」

「お前一体、何者だ?ヤクザだったら悪いが願い下げだぜ」

「見損なってもらっちゃ困る、これでもちょっと名の売れた商売人よ!」

「やっぱりヤクザじゃねーか」

「違う違う、あんな志の低い奴らと同じにされちゃぁ困る
あくまでわしは商売人!デッカイ夢があるからな」

青アザのついた顔でゲラゲラ笑う坪内を珍しい生き物
を見るような眼で橋本は見ながらコーンビーフを仕上げにむさぼった



5月22日(日)02:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の1

埼玉県の所沢市、小手指のあたりに余り知られていないが
わりと大きな陸軍の軍需工場があった戦争が終わって
2年近くが過ぎたがこの工場は何故か念入りに爆撃された為
接収するべき兵器も無く占領軍の管理下にあるとは言うものの
その管理はズサンでいわゆる「屑鉄屋」には格好のシノギの場だった

彼らは、この知られざる工場跡地を『小手指黄金地帯』と呼んだ

掘れば何かしらの金属が後から後から出てくるのである
しかしこう言う場所にトラブルは付き物だ、厄介なのは朝鮮からの強制移民の集落が
近くにあり、日本人の屑鉄屋との縄張り争いからのちょっとした暴力沙汰が日常茶飯事となっていた

そんな幾つかの小競り合いをしている業者の中に
「坪内商会」の屋号を名乗る業者がいた、元陸軍軍人5人からなる屑鉄業者だったが
リーダーの坪内昭三25歳が、貪欲な男で売れる物はなんでも売った

ちょっとした新興勢力であり地元のヤクザなどからすれば眼の上のタンコブといった存在である

彼らは、比較的、移民ともうまくやっており、移民と真っ向から対立する
地元ヤクザ連と違ってシノギは右上がりの状態だった、

そんな1947年の6月のある日それは見つかった


「みんな!大物じゃ、とんでもないもんが出てきもした」

空の大八車で砂煙を上げながら走って帰ってきた佐門が言った
坪内商会の他のメンバーは作業小屋のバラックで、昼飯を食いながら銅線の被覆を削っていた

「なんやぁ!こっちはこっちで忙しいんやで!金塊でも出たんやろうな!」

齧った芋を吹き出しながら眼鏡の関西人が最初に返答した

「戦車じゃ!戦車が出てきおった!親方はどこにいもす山崎どん!」

「なんだ、戦車か、珍しくも無い、親方だったら今日はアメ公の接待だよ」

佐門を無視して作業を続けていたこの四人の中で
30代後半の一番年上らしい男がめんどくさそうに続ける

「平田どん、そりゃオイだってスクラップの戦車じゃったらこんな慌てて報告にゃ来ん!」

「丸ごと見つかったって事ですか?そうだったら凄いけどクスクス」

一番若い少年が佐門にヤカンの水を欠けた湯のみに注いで手渡した
手渡された水を一気に飲み干すと佐門は唾を飛ばしながらもう一度言った

「眞田くん!そうなんじゃ!丸ごとじゃぁ!戦車一台丸ごと出てきもした!」

「なんやてぇ?」


興奮する佐門に付いていくと倉庫跡の散々掘り返した一角に
佐門が掘った穴があった、小さな秘密の防空壕が見えるその中にそれは
ひっそりと隠されていた今まで見た戦車のスクラップとはまったく違うそれは
正式には九二式重装甲車と呼ばれる古い旧式の物だ
だが残念な事に履帯と転輪が全て外された状態だった

「なんや、こら確かに凄いけど、走らんでぇ・・・」

「しかしアメ公が高く買ってくれるかもしれもはん!」

「なぁにが悲しくてアメ公がこんな旧式、第一、買うかよ、ばーか」

「でもすごいなぁ・・・」

一同は、穴から出てきた鉄の棺桶を、しばらくじっと見ていた




足周りは外されていたが、まだ武装は外されていない



5月21日(土)12:44 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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