丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



2005年6月を表示

坪内昭三1947 其の14

「こいつぁかなり厳しいぞ、正直言って、例の誘拐騒ぎが無かったって、
近いうちに、お釈迦になってたぜ多分」

雨漏りする、とある小さい町工場で、例のジープは、エンジンの蓋を開けられていた
「うーっ」とうなり、平田は、さじを投げるように言った。

「それでも、なんとかしてくれ、新しいジープ手に入れとる時間は無いんじゃ」

「そうは、いってもだなぁ見ろこの距離数、地球何週してるんだよ、マイル表示だぞしゃれになんねぇ」

平田が指差した距離計には、地球を15周ほどした数字が、並んでいた。

「シリンダーが元々駄目になっちまってるって事か」

「橋本っさん、そういう事だよ、すっかり磨耗しちまって、圧縮なんざヘロヘロの状態だ
バルブリフターその他もスコスコのヘニャヘニャ・・・

レースに出すのによう!

どうしろって言うんだよこんなガラクタ・・・」

「泣き言、聞く気は無い、なんとかして行けるようにするんじゃ」

「解ってるよう・・・でもこりゃ改めて難問だぜ」

「まぁその辺は、平田さんの才能で、どーんと何とかしてくれや、わしゃ用があるので
ちょっとここから離れる、陣地の様子も見て来なきゃならんしな」

平田が「逃げんなー!」と叫ぶのを尻目に鼻歌を歌いながら
そういうと坪内は、平田と橋本を工場に残して、雨の中、どこかに行ってしまった。

「レースの間だけ、もちゃぁ良い、とにかく動くようにする事だな」

「でもなぁ、ガバガバになっちまった、シリンダーは、元に戻らねぇよ、そこが一番肝心だ」

「ボアアップするしかねぇな、出来るか?」

「設備は、何とかなるんだがね、いかんせんピストンがねぇ・・・」

そういって、腕組みして、平田は考え込んだ

「直径79.4mm×ストローク111.1mm、正規のルートがありゃぁ、使い込んだエンジン用に
若干、径の大きいパーツが純正であるはずなんだが、そんな物は手にはいらねぇ、
まぁしかし、アメ公がそんな物、供給してるかも怪しいしな・・・・。
どうせやるんなら、直径85mmぐらいの、があれば多分排気量だけは
あの野朗のジープと対等に近くなる・・・もっともバルブ関係が、ヘロヘロのフニャフニャだから
圧縮比、上げるとかは危険だ・・・・う゛ーーーーーー思いづかねぇ!」

平田は、スパナを投げつけて椅子に座って頭を抱えた。


水冷4気筒で排気量2,199cc。弁配置SV方式で、54馬力、車体重量1017kg、359851台が世界中にばら撒かれた
このアメリカの物量作戦の象徴のような車輌は、多くの伝説を持っているらしい。
らしいと言うのは、残念な事に、筆者が、お気楽ネット検索で調べても。
具体的なエピソードにお眼に掛かる事が出来なかったからだ。

やはりこの手のウンチクは、本当は、地道に調べるのが本筋である。

「神社の階段を登った」「箱根の山を凄い勢いで越えた」とか具体的で無い物は必ずその手のサイト
にはあるが、実際に見た方のエピソードとしてのコメントは、簡単には見つからない。
それも、全国各地で似たようなエピソードがあるらしく、何だか都市伝説のような構造を持っている部分もある



6月9日(木)11:33 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の13

前日、公民館に泊まった、眞田は寝床に入って
ランタンの明りの下、小汚い黒いメモ帳を片手に何か熱心にタイプライターを叩いていた。
どこから手に入れたのか、使い古された機械だったが眞田の手付きは慣れている。

となりで、寝ていた坪内の養子の一番小さい子がそれに気づき、丸い眼を、いっぱいに広げて見ていた。

「正助くん、眠んなきゃ駄目だよ」

「うーん」

しかし、正助はその機械が、気になってしょうがないようだ。

「何してるの?」

「君のお父ちゃんに言われて、お仕事だよ。・・・・眠んなきゃ駄目だよ正助くん」

「うーん」

答えた正助は、変わらず丸い眼をランランと広げていたが
しばらくして小さい欠伸を一つすると規則的なタイピング音に
合わせて、コックリコックリ船を漕ぎ始めた。

眞田の作業は、その後、明け方まで続いた。


で、その翌日である。
一晩で陣地が作られた倉庫跡にウェイン少佐が、メガホンで呼びかけていた。
塹壕には、かきあつめられた坪内の息の掛かった男達が50人ちかくいる。

包囲したウェイン少佐の近くには赤十字のマークがついたトラックが来ており。
数名のGIが投石か何かで負傷して手当てを受けていた。

「ミスターツボウチ!これはドウいうことデスカ!」

「見てのとうりじゃい!わしらは、ここから一歩も動かんぞ!」

そう言うと、塹壕から例の九二式から取り外した機関銃がニュッと顔を出した。
佐門がニヤニヤしながら構える。

「そんな事シテ何になりますカ!ツボウチ!無駄でス、ヤメナサイ!」

「それ以上、近づいたら撃つ!」

その銃口を見てギョッとする数人のMP達。
一番近い所まで来ていた二名のGIの足元に、牽制の銃弾が撃ち込まれた。

「ユーハ、ビジネスマンの筈ダ!ツボウチ!これでは戦争だ!」

「ワハハハハ!そうよ!戦争じゃぁ!ビジネスで戦争するのは、おぬしの国の専売特許
じゃろーけど、今回は借用させてもらう!カッカッカッ!」

佐門が、坪内の合図でもう一連射した。
空砲では無い事を知って、MP達はスッカリ青ざめている。

「いいか、佐門さん、絶対、当てるなよ」

「まかしんしゃい」

佐門は、すっかり上機嫌だ

「ミスターツボウチ!コノママデハ私達も強制的な行動を取らねば為らない!オトナシク言う事をキキタマエ!」

「おー結構じゃ!こっちにゃ仲間が50人以上おる!兵糧もあと一ヶ月は十分あるぞ!
あんただって、南方じゃ日本軍陣地にゃホトホト参ったはずじゃ!やるならトコトンやってやる!」

「こんな事は!ジカンの無駄です!ミスターツボウチ!何が目的ですか?」

「あんたに恥を、かかせる!」

「ホワット???」

「わしたちは、あんたの裏切りで明日の無い身の上じゃぁ!言っとくが日本式の篭城はシツコイぞう」

それを言われて、ウェイン少佐は、舌打ちした。
確かにこれは、旨いか不味いかと言えば不味い状態だ、この区域の治安、管理の責任者は
少佐である、実力行使すれば坪内の戦力など、どうという事は無い。
しかし、この程度の事で流血沙汰を、起こせば立場が悪くなるのは自分だ。

しばらくして、増援部隊が、やって来たが少佐は決断が下せずに日がくれてしまった。



6月7日(火)01:51 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の12

坪内の屋敷は全焼してしまっていた。
庭に残された動かないジープ以外は何も原型を留めていない。

村の消防団が現場を、監視していたので事情を聞くと
幸い、家族と仲間達は無事なようだ、村の公民館にいると言うので
いそいで駆けつけると、焼け出され疲れきった家族がいた。
煤まみれの息子が、坪内と橋本に気づくと駆け寄って来た

「みんなは、大丈夫か?」

「佐門さんと眞田さんが、火傷したけど、後の人は幸い無事だよ」

「なにいい!」


年長の息子の指差した先に、包帯だらけの佐門が、お菊の給仕で
子供達と一緒に炊き出しの握り飯をモリモリ喰っていた。

「親かたぁ、わしの事なら心配せんで下さい」

「心配するわい!?」

他の連中を、慌てて確認した、眞田が一番、深い火傷をしていたが
幸い全治一週間といった所だった。

そうは、言っても全員、満身創痍の状態である。

「昨日、親方が出かけてすぐに、襲われたんや」

「何もかも消し炭になっちゃいました。すいません坪内さん」

布団で横になっている、眞田が、すまなそうに、そんな事を言った。

「アホ、全員無事・・・では無いが、幸い生きとる、今はそれが肝心よ、寝とれ!」

ヤクザ共が総員を繰り出して、寝込みを襲ってきた時タマタマ、屋敷の外の便所に
行っていた佐門が気づいた、人数は20人以上いた、気づいた時には手遅れで火炎瓶が
何本も投げ込まれ、木造の坪内のボロ屋敷は、あっというまに燃えてしまった
慌てて佐門が、全員を救い出したが、眞田を助ける時に落ちてきた梁が背中にぶつかり
大火傷を、おってしまったのである。

それと今、ここには、居ないが、李の方も同様な襲撃にあったらしい、やつら、とことんやる気のようだ。
向こうでは、重症の人間も何人か出たようだ。

「万事休す、畳の下の金もこのとうりだよ坪内」

平田が口惜しそうに、消し炭になった札が入った箱を見せた時。
公民館の玄関に、子分を引き連れ橋本に片目を潰されたヤクザが
嫌な笑いを浮かべて、のこのこ現れた。

「見舞いにきたぜ、坪内、調子はどうだ?」

「てめぇ!ふざけんな!」

橋本が飛び掛ろうとするのを、坪内が制止した

「やめとけ!橋本っさん」

「こんな奴、相手にしては、いけまもはん!橋本どん!」

包帯だらけの佐門が橋本を、押さえ込む。
ヤクザを罵りながらバタバタしている橋本の前で
片目のヤクザは可笑しくてたまらないと言う残酷な表情で、にやけた。

「俺は知らない事さ、なぁ坪内、お前は、相当恨み買ってるもんなぁ」

ヤクザがトボケテ言う。
ウェイン少佐の情報を出し抜いた辺りから用意周到なのを考えれば、今回の襲撃も
根回しを十分した上だろう。ここで、こいつを袋にした所でどうにも為らないに違いない。

「まぁ所沢から、出て行くこったな、味方は誰もいねぇぞ坪内、これからお前が何か
しようと、するたんびに火炎瓶が飛んでくるかも知れないぜ、気を付けるこった」

歯軋りする橋本達だったが、その脅しを聞いて、坪内が突然ゲラゲラ笑い出した。

「これで、終わりと思ったら大間違いじゃぞ、わしゃ商売人じゃ。
あんたらとは違うって所、嫌ってほど見せてやるから、よく見とけ、カッカッカッ!」



6月3日(金)12:51 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の11

撤収が開始された

あれから2時間程して、李がトラックを連れてきた
黄金地帯に山積みされた、鉄屑を李が用意した2台のトラックに詰め込む
李のグループも含めて10人以上で作業すると
トラックは1時間もしないうちに満杯になり
一旦作業をストップし、親方が話を着けてくるのを待つ事になった

1時間が過ぎ、まだ帰って来ない

2時間過ぎて、日もすっかり暮れたが、クロガネ4起は、それでも帰ってこなかった
李が、痺れを切らして「私もサガシテクルヨ土地」と一言、言って自転車で出かけた。

物の怪が出ても何の不思議も無い所沢の田園地帯である
確かに、時期的に、田植えが終わったばかりで、開いた田畑は、少ないが
それでも札束を積めば、どうにでも為るはずの土地柄だ。

これは、おかしい。

現場に、残った人間が全てそう思っていたが、口には出さなかった

坪内商会が溜め込んだ鉄屑も相当な物だが、李のグループの鉄屑の山も同様、かなりな物だ
一分を争う状態である、時間が無い。

山崎が、イライラしながら足元の、うず高くなったタバコの吸殻を蹴散らしたのをキッカケに
各々が、帰りの遅い坪内の事を話だした

「何やっとるんや?親方?」

「あいつは、立派な守銭奴だ、遊んでるわけじゃあるまい」

「と言う事は、もしや事故など、起こしたんでは、ありもはんか?」

「にしたってやなぁ、平田はんも一緒なんやでぇ連絡が無いのは、かなり変やで」

何かあったのかもしれない、事故なら、現場では無く自宅の電話にでも連絡
があったかも知れない、おかみさんは、動けないし、心配していてもしょうがあるまいと
坪内の自宅に一旦帰る事にした時、自転車で、出かけた李が戻ってきた。

顔色が良くない

「エライコトヨみな・・・」

「????」

憔悴しきった、李が錆びたドラム缶に座ると、訳を知りたい面々が周りを囲んだ。

土地が借りられない、何故か
幾つかの地主をあたったが、土地を貸してくれと言った途端に
門前払いを喰った、朝鮮移民の李が当たれる地主は、けして多くは無い
ゆえに、その殆どが、坪内が交渉した後らしかった

「こうなったら、無断でどっかに野積みしもすか」

「トラック10杯で済むって言うならな」

佐門が、そんな事を、言った時、クロガネ4起がようやく帰って来た
現場に残されていたメンバーが、駆け寄り、佐門が同じ事を言うと坪内が一括した

「そんな事は、極力やっちゃぁいかん、ヤクザ以下じゃい!」

「だったら、地べた借りてこれたのか?」

「それがじゃぁ、どうもそのヤクザ共が、裏で手を回したらしい、所沢から車で一時間
を目処にトコトン話してみたが、無しのつぶて・・・お手上げじゃぁ!」

そんなこんなで、歌舞伎町の高倉にまで掛け合ったのだが、着流しヤクザの高倉が
全国地図を開けて指し示した、その場所は、福島の山奥まで行ったとんでもない所だった。
男気はあるし、マヌケだが人望のある組長だったが
こういう事にはトコトン弱い男であった。

その後も相当かけずり廻ったのだろう、坪内が昼に見た時より憔悴しきって、痩せて見えた。



6月1日(水)11:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


(3/3ページ)
最初 1 2 >3<