丹下幸平@窃盗犯108号
 
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坪内昭三1947 其の3

朝が来た、子供の声で眼を覚ます時計を見ると7時だ
台所は、大騒ぎである、とにかく動く子供達に混じって4人の男達が朝飯を食っていた
橋本が頭をかいていると、子供が一人鼻をつまんで駆け寄って来た

「おじさんクサーーイ!」

そう言うと、笑いながら食卓に駆けて戻っていく、言われてみて自分の臭いを
嗅いでみた、何とか飯が食えた頃までは体の洗濯もそれなりに
していたつもりだったが、この一週間それもしていなかった
鼻が曲がってしまい自分ではよく解らなかったがまぁそういう物か

「兄さん、さっぱりしてこい!おかみさんが風呂用意してくれてる、あっちや!」

家族が一斉に笑った、眼鏡の男に指差された先にドラム缶の露天風呂がある
飯も食いたかったが、どうにも食卓には入りづらい、とりあえず服を脱ぎドラム缶の側にあった
下駄を履くと風呂に、浸かった

臭いはずだ、みるみるドラム缶の湯が埃と垢で濁っていった

「眞田ちゃん、それじゃ子供達よろしくね」

坪内の女房の声が聞えてきた、もう出かけるようだ

「橋本さん!着替えはそこに置いてあるから!汚れてるのはこの子に渡しといて!」

そう言うと孤児三人と4人の男に見送られ例のジープに乗って赤ん坊を背負って出かけて行った
子供と男三人が出かけるとサッキ、おかみさんに言付けられていた少年が一人、風呂に近づいてきた

「眞田ですよろしく、この服ですね」

「あぁー、悪いな新しい服は、働いて買わせて貰うから捨てちまってくれ」

「そんなぁ、もったいないですよ」

「でも洗濯して貰うのも気がひけるしな」

汚れた軍服を、つまみ上げて少年は笑顔で言った

「気にしないで下さい、僕の仕事ですから」

風呂から上がり新しい服に着替えると
物干し場で、少年が大量の洗い物と格闘していた

「手伝うよ」

「いや、いいですよ午前中は、ゆっくりしてて下さい」

「そんな訳にもいかん、どう言おうが手伝わせてもらうからな」

井戸から水を汲み、タライに水を入れると手際よく石鹸をつけ、まず赤ん坊のオムツから洗いだした

「俺の服は俺が洗うから、こっちにまわしてくれ」

「・・・まいったなぁ、じゃぁよろしくお願いします」

そう言うと眞田は橋本の軍服を手渡した

「ところで、お前ら一体何者だ?」

「僕達の正体かぁ・・・正直、僕にも何と言っていいか」

そう言って少年は苦笑いした。



5月23日(月)15:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の2

闇市に着くと、一件の食い物屋に入る、人が並んでいたが
大声で親父を呼び無理を言って足元のオボツカない橋本を座らせた

「何が喰いたい?橋本さん!何でもいいぞ!わしは、こう見えても羽振りのいい方でな」

「銀シャリと・・味噌汁・・それからタクアン・・・それから・・卵・・・コーンビーフ・・」

「親父!聞いたか?ジャンジャン持ってきてくれ!」

「味噌汁はイナゴ味噌の奴が二件先にあるだけだ、うちにゃぁねぇ!卵は三軒さきだ」

「じゃぁ買ってきてくれ、ワシも腹が減った!」

百円札を二枚わたすとイソイソと親父は買出しに行った

「橋本さん、年は幾つかね?どこから帰って来なすった?」

「・・・今は話しかけネェでくれ・・しゃべると腹にひびく」

「おっとそうか、すまん」

汚い、廃材で出来たテーブルに代用食が一部混ざっていたが、豪華なメニューがずらりと並んだ
橋本はイナゴ味噌の味噌汁に震えながら口をつけると、
親父が気を利かせて買ってきたフスマパンにかじり付く、三口で腹に詰め込んだ

こうなったら止まらない

話しかける坪内を無視してこの世の終わりかと言う勢いでガツガツと喰った

三杯目の丼飯に卵を割ると、テーブルに載せてある「一振り一円」と書かれた塩を
バサバサかけタクアンをガリガリ言わせながら喰い終わってやっと落着いた
出された茶を飲みながらコーンビーフの缶を開ける橋本

「吸うかい」

坪内は紙巻タバコの金鵄(ゴールデンバット)を差し出した

「あぁスマネェ、一服させてもらう」

坪内が懐から取り出したジッポーで火を着ける

「もう一度、聞くがどこから帰って来なすった?」

煙を吐きながら橋本が話した

「・・・・ルソン島だ本土に帰れたのは半年前」

「あぁ南方かね、わしゃ大陸だ、お互い大変だったなぁ」

「まぁな、帰れたのが、俺も今だに信じられん、しかし帰ってからも食い物に
苦労するとは思わなかったぜ」

「仕事が無いのか?なら世話するがどうじゃ?」

「お前一体、何者だ?ヤクザだったら悪いが願い下げだぜ」

「見損なってもらっちゃ困る、これでもちょっと名の売れた商売人よ!」

「やっぱりヤクザじゃねーか」

「違う違う、あんな志の低い奴らと同じにされちゃぁ困る
あくまでわしは商売人!デッカイ夢があるからな」

青アザのついた顔でゲラゲラ笑う坪内を珍しい生き物
を見るような眼で橋本は見ながらコーンビーフを仕上げにむさぼった



5月22日(日)02:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の1

埼玉県の所沢市、小手指のあたりに余り知られていないが
わりと大きな陸軍の軍需工場があった戦争が終わって
2年近くが過ぎたがこの工場は何故か念入りに爆撃された為
接収するべき兵器も無く占領軍の管理下にあるとは言うものの
その管理はズサンでいわゆる「屑鉄屋」には格好のシノギの場だった

彼らは、この知られざる工場跡地を『小手指黄金地帯』と呼んだ

掘れば何かしらの金属が後から後から出てくるのである
しかしこう言う場所にトラブルは付き物だ、厄介なのは朝鮮からの強制移民の集落が
近くにあり、日本人の屑鉄屋との縄張り争いからのちょっとした暴力沙汰が日常茶飯事となっていた

そんな幾つかの小競り合いをしている業者の中に
「坪内商会」の屋号を名乗る業者がいた、元陸軍軍人5人からなる屑鉄業者だったが
リーダーの坪内昭三25歳が、貪欲な男で売れる物はなんでも売った

ちょっとした新興勢力であり地元のヤクザなどからすれば眼の上のタンコブといった存在である

彼らは、比較的、移民ともうまくやっており、移民と真っ向から対立する
地元ヤクザ連と違ってシノギは右上がりの状態だった、

そんな1947年の6月のある日それは見つかった


「みんな!大物じゃ、とんでもないもんが出てきもした」

空の大八車で砂煙を上げながら走って帰ってきた佐門が言った
坪内商会の他のメンバーは作業小屋のバラックで、昼飯を食いながら銅線の被覆を削っていた

「なんやぁ!こっちはこっちで忙しいんやで!金塊でも出たんやろうな!」

齧った芋を吹き出しながら眼鏡の関西人が最初に返答した

「戦車じゃ!戦車が出てきおった!親方はどこにいもす山崎どん!」

「なんだ、戦車か、珍しくも無い、親方だったら今日はアメ公の接待だよ」

佐門を無視して作業を続けていたこの四人の中で
30代後半の一番年上らしい男がめんどくさそうに続ける

「平田どん、そりゃオイだってスクラップの戦車じゃったらこんな慌てて報告にゃ来ん!」

「丸ごと見つかったって事ですか?そうだったら凄いけどクスクス」

一番若い少年が佐門にヤカンの水を欠けた湯のみに注いで手渡した
手渡された水を一気に飲み干すと佐門は唾を飛ばしながらもう一度言った

「眞田くん!そうなんじゃ!丸ごとじゃぁ!戦車一台丸ごと出てきもした!」

「なんやてぇ?」


興奮する佐門に付いていくと倉庫跡の散々掘り返した一角に
佐門が掘った穴があった、小さな秘密の防空壕が見えるその中にそれは
ひっそりと隠されていた今まで見た戦車のスクラップとはまったく違うそれは
正式には九二式重装甲車と呼ばれる古い旧式の物だ
だが残念な事に履帯と転輪が全て外された状態だった

「なんや、こら確かに凄いけど、走らんでぇ・・・」

「しかしアメ公が高く買ってくれるかもしれもはん!」

「なぁにが悲しくてアメ公がこんな旧式、第一、買うかよ、ばーか」

「でもすごいなぁ・・・」

一同は、穴から出てきた鉄の棺桶を、しばらくじっと見ていた




足周りは外されていたが、まだ武装は外されていない



5月21日(土)12:44 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

百万円のツボ 目次

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其の2→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02on45466880/1/
其の3→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02xw4546689C/1/
其の4→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc020J454668A4/1/
其の5→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc029E454668BE/1/
其の6→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02JG454668DD/1/
其の7→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02tv45466890/1/
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其の9→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02XQ45466909/1/
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其の19→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02II45466A61/1/
エピローグ→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02R045466A80/1/



5月20日(金)08:47 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 百万円のツボ | 管理

百万円のツボエピローグ

丹下は、明け方、九十九里に連れられて帰宅
派手な祭りを終えて興奮した九十九里が長居しようとしたが
追い出すと、背広を着たまま自称事務所で泥のように眠ってしまった

昼ごろ起きた丹下は慌ててサラ金三社に電話、
まぁ何とか頭を必死に下げて
汗臭い男の必死な顔を怪訝そうにどこの受付も見ていたが今回は勘弁してもらえた
そんなこんなで現金で支払を終え帰って来ると事務所に九十九里が待っていた

「丹下さん、ランドウォリア返して貰いにきたっす」

「おう、お疲れさん、今コーヒー入れる、ありゃ便利だったぜ、また頼む」

「今回は使用料20万で結構です」

「えっ?どういう意味かな・・・九十九里君?それ?」

眼が点になっている丹下に構わず九十九里の留めの一言

「しのごの言わずに20万、今日払って貰わないと
自動的に島木さんからの借金になるんでよろしくーー」

丹下は思わずインスタントコーヒーを流しにぶちまけてしまった


ワイドショウでは、昨日のスッタモンダを大騒ぎで報道していた
坪内老人は、翌朝8時頃、隅田川の川べりを歩いている所を警官に保護されたのだが
ワイドショーのインタビューに例によって上機嫌で答えていた
ちゃんとした、記者会見場での質疑応答だ、あの爺こんな事まで用意していたらしい
とんでもない食わせ物だ、苦虫を噛み潰したような顔をした角田警部の隣で
爺は、嘘八百を並べ立てた

「いやはや!奴らのアジトから脱出するのは本当に大変じゃった!
わしが、若かりし頃、鍛えた縄抜けの術で、奴らの隙を突き拘束を解いたまでは
良かったのじゃが20人以上は、おったろう、脱出しようと駆けるワシを
雲をつくような大男たちが立ちふさがったのじゃ、あれは日本人では無かった
のかもしれん、しかし所詮、毛唐のカタカナ体術では筋金入りのわしの合気道に
かなうものでは無い、立ち止まっては一人は隅田川へ、もう一人は路上へと
チギッテは投げツマンデは投げと繰り返し何とか逃げ延びたというわけじゃ

108号を捕縛出来んかったのは痛恨の極みじゃが、いやぁしかし暴れた暴れた、カッカッカ!」

「と言う事は、隅田川べりに108号のアジトがあったと言う事ですか?」

「うん?わしゃぁそんな事言ったかな?」

「えぇ確かに今『隅田川に投げた』と・・・?」

「さて、それがな・・・思いだせん」

いけしゃぁしゃぁと爺は、トボケテそう言った
その後、角田警部への質問となった

「・・・・今回の失態は私の責任であります・・・しかし今回から私は
『108号専任』となりました・・・・ちょっとよろしいですか?カメラさんこっちお願いします」

そう言うとマイクを握って立ち上がり画面に向かって青筋を立てながらこう言った

「108号!観ていたらよく覚えておけ!貴様には今回の一件で
『騒乱罪』!『器物破損』!『公務執行妨害』!『営利誘拐』!がこれまでの
『窃盗』の上に上乗せされた!必ず捕まえてやるからな覚悟しとけ!」



5月20日(金)08:23 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 百万円のツボ | 管理


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