丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 其の8

池袋の駅が見えて来た、一旦ジープを停めて周りを見回すが、トヨダAAは見当たらない
雨の中ゆっくりと辺りを流していると、大雨の中、営業している蕎麦屋があった
坪内が飛び込むと、泥だらけの軍服で『傷病軍人』のノボリと松葉杖を持った客が二人いる
店の親父が、迷惑そうに言った

「もう店じまいなんだ、明日にしてくれ」

「まったくスマン、あんたらこの辺りで黒い車が泥に、はまってるの見なかったか?」

「・・・・いやぁ、この辺じゃぁ見なかったけどねぇ」

「子供抱えた、ごつい女を乗せた車じゃ、なんでもいい教えてくれ!」

その時、客の一人が答えた

「あぁ、あいつらか・・・・もしかしてトヨダのAAか?」

「そいつじゃぁぁ!頼む!どこに行ったか教えてくれ!」

テーブルに駆け寄ると、どう見ても、さっきまで品書きの値段を見ていた方の男が
眼をつぶり黒眼鏡をかけ、相棒は松葉杖の先を、これみよがしに床につけて見せた

「いやぁそう言われても私は眼が悪いので・・・申し訳ありません」

とか言いつつ『傷病軍人』のノボリを手探りで掴むと坪内に見えるように直した

「わしゃあ商売人じゃ!ハッキリ言え!でその眼はいくらで見えるようになるんじゃい!」

「私は国会議事堂は、よく見えるんです」

「よーし解った!じゃぁ聖徳太子はもっとよく見えるじゃろう!さっさと教えてくれ!」

そう言うと国会議事堂10件分の100円札をテーブルに叩き付けた
思わず眼を開き傷病軍人はベラベラ喋り出した

二人の偽傷病軍人が、物乞いの帰り道、雨の中で、今日のシノギの分け前で喧嘩していると
慌てて走ってきた黒のトヨダが、目の前で泥濘に嵌って動けなくなってしまった
運転席を見てみると、ヤクザらしい、こりゃぁ関わり合いにならない方がいいと
そっと離れて行こうとしたが、呼び止められてしまい泥の中、
車を出すのに、ついさっきまでコキ使われていたというのである

「赤ん坊がギャーギャー泣いてたが、それを抱えた女は堂々としたもんだったよ」

「そりゃぁ!間違いなく、お菊じゃ!で何処に行った!」

「そこの曲がり角を左に曲がって練馬に向かったぜ」

偽傷病軍人の相棒が、店から顔を出し松葉杖で練馬方向を指して教えてくれた
坪内が、店の前に停車しているジープに飛び込むと泥を巻き上げて練馬方向に吹っ飛んでいった
思わず見送った偽傷病軍人ふたりは、改めて泥まみれになってしまった


大きな水溜りが沢山出来た悪路を、しぶきを上げながらすっ飛ばしていると
しばらくして、雨の中低速で走行している泥だらけのトヨダが見えて来た

「あれじゃぁ!橋本っさん!どうする!」

「黙って見てろ!舌噛むぞ!」

シフトを下げると一気に加速する、飛び跳ねながら後10メートルという所まで来た時
相手も気づいた加速しながら、後ろに顔を出しピストルを撃ってくる、サイドミラーが砕けた
トヨダの後部ガラスに、大声を出している、おかみさんの顔が見えた
坪内がそれを見て叫ぶ!

「お菊ー!」

ヘッドライトの片方が銃弾に当たり砕けた時、橋本が大声で言った

「いいか!坪内、サーカスのオオトリ空中ブランコ三回転だ!椅子にしがみ付いとけ!」



5月27日(金)12:11 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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