丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



百万円のツボ 其の6

喫茶店で丹下が握り締めていたのは
島木に内緒で置いておいた、へそくりの黄桜銀行の万札だった。
これが忍者丸が公表した記番号の一枚にバッチリ合致したのである

巨大掲示板には、丹下のヘソクリの記番号がズラズラ並んでいた

忍者丸がこの番号を何故、知っていたかと言うのは謎だ、大問題だが

しかし今、丹下にとって大事な事は、そんな金を使う気になるほど金が無いという事実だった

情けない話だが、由香に電車賃を借りて島木にヘソクリの50万の洗濯を依頼したら
20万しか残らなかった、ネットでの大騒ぎを考えれば、これは、とんでもなく良心的だが・・・・

「お前、どうするんだこれから?俺から借金するか?」

島木が言うと心配してるのか、型に嵌めようとしているのかサッパリ解らない

「例の医者、紹介してくれ」






高田馬場の、薄汚い犬猫病院に丹下と悪徳医者、異常にガタイの良い助手のロペスが
例のボロアパート(其の1参照)の旦那が乗った手術台を囲んでいた

「すぱっとお願いします」

「そうだな、俺も眠くなってきたからさっさとやるか」

「たんげさーーん・・・」

「ダイジョウブヨ、先生メイイヨ」

「本気なんですかぁ・・・」

「本気も本気だ、俺だって背に腹は変えられねー、
第一お前、確かに『俺の腎臓と肝臓を買ってくれ』っていってたじゃねーか、だから買ってやる」

「いーねぇいーねぇバイオレンスだねぇ仁義無き世界だねぇ、まぁ心配すんな
しばらくは相当、不自由な状態だが人間は慣れる!ズバット借金返しちまえ!ロペス全身麻酔!
ェンド、音楽」

「?」

「今日ハ、まだむばたふらいノありあ♪」




ロペスは、鼻歌を歌いながら場違いなオペラのCDを大音量でかけた




「マリアカラスか、さすがロペス、いい選曲だ」

「たんげさーーん・・・」


手術室にマリアカラスなんて最悪だ、
借金野郎は、青い顔をして小便を漏らしていた
ガタガタ震えながら丹下の顔をひきつった笑顔で必死に見ていた


「俺は本気だ悪いな、ロペス、やってくれ」


まだ、涙を流しながら丹下の顔を必死で見ている
こいつまだ、どうにかなると思ってやがる、そんなんだから、こんな借金する
事になるんだ、情けねぇ・・・丹下は思わず目をそらした冷たい汗が背中を、つたう

麻酔装置をロペスが運んできた

「タコベヤイクヨリマシ!、丹下サンイイ人ダヨ」

そうさ、情けないもんさ、人は悪意から借金なんかしない

今日この男を拉致った時、家族は三人で夕食を喰っていた、ノンキにグラム200円の
牛肉でスキヤキなんか喰ってたのが、いけねぇんだ、前と、おんなじように
演技してりゃぁもしかしたら連れてこなかったかもしれねぇってのに・・・

なんで、こんなにコイツら甘いんだ

裏も表もねぇ、演技してる時も本気なら、こっそり借金取りに隠れてスキヤキ喰ってる時も本気なんだ

そうさ、情けないもんさ、人は悪意から借金なんかしない

『話の解る街金』の事、バカにしながら家族団らんしてようが、それは悪意な、わけじゃねぇ

だって旨いに決まってるじゃねーか

なんでこんな奴らばかりなんだろう・・・




「丹下さん!頼むよ!悪かったよ一生懸命返すよ、職も探すだから!だから!」


とうとう泣き出した


少 な く と も 今 は 本 気 だ


だ が 明 日 に ゃ 喉 元 過 ぎ て 甘 え 続 け る ん だ



人 間 な ん て 大 体 そ ん な も ん だ 俺 も 含 め て





「よし、それぐらいでいいだろう・・・止めてくれ」

「エッ丹下サン?」

「いいんだよ、十分だ、音楽も止めてくれ」」

ほっとした手術台の上の借金男は、言葉にならない、うめき声を出して笑い崩れるように泣いていた

医者はニヤニヤしながら丹下を見ている

丹下は借金男の首根っこを掴むと言った

「いいか?1ヶ月以内にバイトでもなんでもいい、働け!それでとにかく金を一銭でも返すんだいいな?」

「ふぁい。。。。」

「約束守らなかったら、次は本当にやるからな・・・今いくら持ってんだ!」

目を、つぶって手を合わせていた借金男は必死に脱いだ服にしがみつき
慌てて財布を、ひっくり返すと小銭がバラバラ床に落ちた

札は一枚も無い

腰が抜けた男は慌てて小銭を拾い集めようとして尻餅をついた

丹下は、その金を拾い集めると、所沢までの330円だけ残して、借金男を犬猫病院から叩きだした





「キャンセル料は、キッチリ貰うからな」

「解ってる、いくら払えばいいんすか?」

「50万、この場でキャッシュしか受付ねぇ」

ぎょっとして、思わず汗をかいた丹下をロペスが、指をボキボキ鳴らしながら睨んだ
丹下の倍ぐらいは、体格がある、こんな狭い所じゃ逃げ切れない
少し考えて手術台に胡坐をかくと、二人を睨んで言い放った

「わかったよう!俺の腎臓もってきやがれ!」





それを見て医者とロペスは顔を見合すと笑い出した

「お前は、本当甘い野郎だ、島木の言ってたとうりだよ」

「なんだって?」

「島木サン、丹下サン、絶対デキナイッテイッテタヨ」

ゲラゲラ笑う二人の前でバツが悪そうに、ふてくされた丹下は頭をボリボリかいた




病院の玄関で靴を履いていると、後ろから医者が丹下にこう言った

「島木もなぁ、時々使う手だ、あいつはどうしようもない奴だったらやるけどなぁ
また用事があったらいつでも来い」

「いや、多分もう二度と、こねぇ」

「まぁそれもいいがな」




高田馬場の駅で財布を広げると15円しか無かった
さっきの犬猫病院にキャンセル料の五万円とありったけを払ったからだ
アパートに帰りゃまだ、銭は無いわけじゃない


ジャケットを脱いで腰に巻き、ネクタイを外すと


丹下は意を決して、所沢に向って走りはじめた。



4月27日(水)09:37 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 百万円のツボ | 管理

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