丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 其の11

撤収が開始された

あれから2時間程して、李がトラックを連れてきた
黄金地帯に山積みされた、鉄屑を李が用意した2台のトラックに詰め込む
李のグループも含めて10人以上で作業すると
トラックは1時間もしないうちに満杯になり
一旦作業をストップし、親方が話を着けてくるのを待つ事になった

1時間が過ぎ、まだ帰って来ない

2時間過ぎて、日もすっかり暮れたが、クロガネ4起は、それでも帰ってこなかった
李が、痺れを切らして「私もサガシテクルヨ土地」と一言、言って自転車で出かけた。

物の怪が出ても何の不思議も無い所沢の田園地帯である
確かに、時期的に、田植えが終わったばかりで、開いた田畑は、少ないが
それでも札束を積めば、どうにでも為るはずの土地柄だ。

これは、おかしい。

現場に、残った人間が全てそう思っていたが、口には出さなかった

坪内商会が溜め込んだ鉄屑も相当な物だが、李のグループの鉄屑の山も同様、かなりな物だ
一分を争う状態である、時間が無い。

山崎が、イライラしながら足元の、うず高くなったタバコの吸殻を蹴散らしたのをキッカケに
各々が、帰りの遅い坪内の事を話だした

「何やっとるんや?親方?」

「あいつは、立派な守銭奴だ、遊んでるわけじゃあるまい」

「と言う事は、もしや事故など、起こしたんでは、ありもはんか?」

「にしたってやなぁ、平田はんも一緒なんやでぇ連絡が無いのは、かなり変やで」

何かあったのかもしれない、事故なら、現場では無く自宅の電話にでも連絡
があったかも知れない、おかみさんは、動けないし、心配していてもしょうがあるまいと
坪内の自宅に一旦帰る事にした時、自転車で、出かけた李が戻ってきた。

顔色が良くない

「エライコトヨみな・・・」

「????」

憔悴しきった、李が錆びたドラム缶に座ると、訳を知りたい面々が周りを囲んだ。

土地が借りられない、何故か
幾つかの地主をあたったが、土地を貸してくれと言った途端に
門前払いを喰った、朝鮮移民の李が当たれる地主は、けして多くは無い
ゆえに、その殆どが、坪内が交渉した後らしかった

「こうなったら、無断でどっかに野積みしもすか」

「トラック10杯で済むって言うならな」

佐門が、そんな事を、言った時、クロガネ4起がようやく帰って来た
現場に残されていたメンバーが、駆け寄り、佐門が同じ事を言うと坪内が一括した

「そんな事は、極力やっちゃぁいかん、ヤクザ以下じゃい!」

「だったら、地べた借りてこれたのか?」

「それがじゃぁ、どうもそのヤクザ共が、裏で手を回したらしい、所沢から車で一時間
を目処にトコトン話してみたが、無しのつぶて・・・お手上げじゃぁ!」

そんなこんなで、歌舞伎町の高倉にまで掛け合ったのだが、着流しヤクザの高倉が
全国地図を開けて指し示した、その場所は、福島の山奥まで行ったとんでもない所だった。
男気はあるし、マヌケだが人望のある組長だったが
こういう事にはトコトン弱い男であった。

その後も相当かけずり廻ったのだろう、坪内が昼に見た時より憔悴しきって、痩せて見えた。



6月1日(水)11:31 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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