丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 其の13

前日、公民館に泊まった、眞田は寝床に入って
ランタンの明りの下、小汚い黒いメモ帳を片手に何か熱心にタイプライターを叩いていた。
どこから手に入れたのか、使い古された機械だったが眞田の手付きは慣れている。

となりで、寝ていた坪内の養子の一番小さい子がそれに気づき、丸い眼を、いっぱいに広げて見ていた。

「正助くん、眠んなきゃ駄目だよ」

「うーん」

しかし、正助はその機械が、気になってしょうがないようだ。

「何してるの?」

「君のお父ちゃんに言われて、お仕事だよ。・・・・眠んなきゃ駄目だよ正助くん」

「うーん」

答えた正助は、変わらず丸い眼をランランと広げていたが
しばらくして小さい欠伸を一つすると規則的なタイピング音に
合わせて、コックリコックリ船を漕ぎ始めた。

眞田の作業は、その後、明け方まで続いた。


で、その翌日である。
一晩で陣地が作られた倉庫跡にウェイン少佐が、メガホンで呼びかけていた。
塹壕には、かきあつめられた坪内の息の掛かった男達が50人ちかくいる。

包囲したウェイン少佐の近くには赤十字のマークがついたトラックが来ており。
数名のGIが投石か何かで負傷して手当てを受けていた。

「ミスターツボウチ!これはドウいうことデスカ!」

「見てのとうりじゃい!わしらは、ここから一歩も動かんぞ!」

そう言うと、塹壕から例の九二式から取り外した機関銃がニュッと顔を出した。
佐門がニヤニヤしながら構える。

「そんな事シテ何になりますカ!ツボウチ!無駄でス、ヤメナサイ!」

「それ以上、近づいたら撃つ!」

その銃口を見てギョッとする数人のMP達。
一番近い所まで来ていた二名のGIの足元に、牽制の銃弾が撃ち込まれた。

「ユーハ、ビジネスマンの筈ダ!ツボウチ!これでは戦争だ!」

「ワハハハハ!そうよ!戦争じゃぁ!ビジネスで戦争するのは、おぬしの国の専売特許
じゃろーけど、今回は借用させてもらう!カッカッカッ!」

佐門が、坪内の合図でもう一連射した。
空砲では無い事を知って、MP達はスッカリ青ざめている。

「いいか、佐門さん、絶対、当てるなよ」

「まかしんしゃい」

佐門は、すっかり上機嫌だ

「ミスターツボウチ!コノママデハ私達も強制的な行動を取らねば為らない!オトナシク言う事をキキタマエ!」

「おー結構じゃ!こっちにゃ仲間が50人以上おる!兵糧もあと一ヶ月は十分あるぞ!
あんただって、南方じゃ日本軍陣地にゃホトホト参ったはずじゃ!やるならトコトンやってやる!」

「こんな事は!ジカンの無駄です!ミスターツボウチ!何が目的ですか?」

「あんたに恥を、かかせる!」

「ホワット???」

「わしたちは、あんたの裏切りで明日の無い身の上じゃぁ!言っとくが日本式の篭城はシツコイぞう」

それを言われて、ウェイン少佐は、舌打ちした。
確かにこれは、旨いか不味いかと言えば不味い状態だ、この区域の治安、管理の責任者は
少佐である、実力行使すれば坪内の戦力など、どうという事は無い。
しかし、この程度の事で流血沙汰を、起こせば立場が悪くなるのは自分だ。

しばらくして、増援部隊が、やって来たが少佐は決断が下せずに日がくれてしまった。



6月7日(火)01:51 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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