千石の壷 2 |
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親殺しだった。
最近はどうにも珍しくも無い事件だ。
どうやら祖父の遺産をめぐっての争いで、一月前に親を殺し、逃亡したようなのである。
「まったく、あほな話だ・・・」
そういいながら、丹下はカップラーメンをすすった。そこへドアを叩く音がして耳に山ほどピアスをつけた金髪のチンピラが返事も聞かずにドアを開けた。
「丹下さん?やっぱり暇っすか?」
「おう、九十九里、上がれや」
づかづか上がってくると九十九里と呼ばれた若いチンピラは、丹下が座っている隣の小奇麗だが安物の事務椅子に座り、ノートパソコンでノンビリ横になっている忍者に挨拶してその報道を見ると、おおきなあくびをした。
「この様子じゃ仕事は、ないよねやっぱり・・・」
「まぁな、そんな事より、なぁ九十九里、まったく最近はどうかしてるぜ」 しかめっつらで丹下はニュース映像を指差した。
「そんなこたオッサンでも言えますよ」
「なんだとう?じゃぁお前の見識を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「そういう事を考えずに生きるしか無いっしょ、このご時勢。第一、一応金貸しのあんたがそんな事言える義理じゃねーよ」
「一応ってのはねぇなぁ、最近は結構まともにやってんだ」
「本当っすか」。九十九里は丹下では無くノートパソコンの忍者に聞いた。聞かれた忍者は懐から帳面を取り出し算盤をパチパチはじくと渋い顔をして。
「まぁ半分嘘でござる」。と答えた。
「うるせぇ」。そう言うと丹下はパソコンの電源を落とした、忍者がおどけて煙と共に消えて行くアニメーションを展開しながら消えて行った。
「まぁ、確かにこいつの協力のおかげだがね、俺は金貸しだけれどもだな、世間一般の違法金貸しにくらべりゃ、お前、仏様みたいな経営してるんだ裕福じゃねぇが健全なもんさ」
「だぁから、そんなもん喰って生活してるんでしょうが、貸した金の利息の計算は老後の生活まで上乗せしなきゃ駄目ですよ」。と九十九里は丹下のカップ麺を指差した。
「お前にそんな事言われる筋合いは無い」
余計な事を言われて不機嫌な顔でカップラーメンの汁をズルズルと音をさせながら丹下はすすった。
その時だ、壊れちまってどうしようもない間抜けな音しかしないドアチャイムが音を立てた。
「おっお客かな」
「そんな馬鹿な」
「うるせぇ、あぁどうぞ、お入りになって下さい!」
いそいそとドアを開けるとそこには帽子を目深に被った、若い女がブランド物の鞄を抱えている。
「あの、ここに来ればお金を貸してくれるって聞いたんですが」
「あぁもう!お貸ししますよ!金庫にゃそう大した金は入ってませんがね、貸せる限りは、あなたが何者であろうと連絡先さえ教えてくれりゃうちは、家賃も残さずどーんどんお貸ししてます、まぁどうぞ上がって下さい!ひじょーに狭い所で申し訳ありませんが」
そう言うと、ニヤニヤしている九十九里を奥へやりワンルームの所沢で一番、貧乏臭い金貸しの自宅兼事務所に彼女を招きいれた。 あわてて机の前の椅子の埃をはらうと、不安そうな彼女を座らせ自分も座った。
「で、おいくら必要なんでしょう?」
「あるだけ全部です」
「はぁ??」
そう言うと彼女は、やおら立ちあがりバッグから取り出した物を突きつけた、ピストルだ。撃鉄をおこすと彼女はヒステリックにこうさけんだ。
「お願いです!!お金を貸して下さい!!あるだけ全部!!!」
そう言って彼女は引き金を明らかに混乱した状態からあわてて引いてしまった。
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Jan.30(Tue)13:47 | Trackback(0) | Comment(0) | 丹下幸平 千石の壷 | Admin
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