丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 エピローグ

 それから数日が過ぎたある日、橋本は傷をいやしていた坪内の借りていた借家で荷物をまとめていた。もっとも最初ここに来た日に着ていた旧軍の軍服とその後買い揃えた洗面道具と僅かな現金以外持って行ける物など何も無かったが。
 昨日まで寝ていた寝床の枕元には傷ついた手でどうやったのかは解らないが例の坪内が持ってきた洋裁の仕事がきちんと仕上げられ、畳まれている。

 ソルミの事は、どうしようか迷った。一緒に帰ってくれないかと頼めば案外素直についてくるかもしれない。これからの橋本にとってはしっくり嵌らない「平和な世界」との彼女は潤滑油になってくれるだろう。しかし田舎の風景を思い出すと何故かそれは酷な事のように思われた。

 苦労するのは、あいつだ。

 それでソルミとは顔を合わせずに出て行く事に決めた。

 少々男らしく無い。そんな風にも思ったが、そんな選択をするのが橋本だった。

 ズダ袋に持ち物を収めると今朝ソルミが取り替えてくれた右手にしっかり巻かれた真っ白な包帯を少しの間だけ見つめた。

 台所で子供をあやしながらうつらうつら居眠りをしていたお菊の目を盗み、そっと橋本は家を出た。



 外は快晴だった、散歩に行くような足取りで橋本は黄金地帯へと歩いていった。近くまで行くと米軍の戦闘車両を運ぶ巨大なトラックいわゆる「ドラゴンワゴン」が見えてきた。
 とんでもなく馬鹿でかいそのトラックの背中には錆びだらけの例の戦車がのっていた。
 間近にたどり着くと作業するMPのそばで佐門がそれをいかにもおしそうな顔で見ている。

「どうなるんだこいつ」。橋本が後ろから声をかけた。
「没収ですわい、他の屑鉄は整地作業っちゅう名目でわしらのもんになることになりもうしたが、こいつだけは物騒だからアメリカに持って行くらしいですたい」
「向こうに行ってどうなるのかね」
「うまく行けば博物館入りだそうですたい」
「そうか・・・残ってくれりゃいいんだがな・・・」
「ところで橋本どん、どちらに」
「ちょいと散歩さ」

 そうとぼけると、鈍感なこの九州男児に笑顔で見送られながらその場を離れていった。

 全ての仲間達が真っ黒になって働いていた。終りなど無いのだ、苦しかろうと悲しかろうと、嬉しかろうと全ての人間は形はどうあれ働きつづける。そのことに関して言えば橋本とて同じ事だ。ただここは自分が根をおろす場所では無い、そう思った。そのことを思うと心の中に田舎の親父の背中が見えてくる。
 第一、あの程度の現実とは関係が無い馬鹿騒ぎを恩に着せて、坪内のやっかいになるような程度の低い考えはどう逆さにしたって橋本という人間には持てなかった。

 これでいい。

 潰されなかった片方の目でしばらく、懸命に土を掘る仲間達を少し離れた位置からしばらく見つめ。そう割り切った橋本は清々しい顔をして、そっと黄金地帯を後にした。







 入れ替わりで借家に帰ったソルミは、仕上げられた洋服を見て事態をすぐに察した。橋本の寝床のあった奥の部屋に素早く入り押入れを開けるとそこには皮の小さな旅行鞄が用意されていた。

 鞄をつかむとソルミは、迷わず駆け出した。

 絶対逃がさない。

 そう旅行鞄を用意した時から彼女は心に決めていた。



1月27日(土)18:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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