千石の壷 3 |
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「まったく、ここんところロクな客がこねぇと思ってたら極めつけが来ちまったなぁ・・・嫌になって来るぜ」
そういって丹下は事務机に腰を降ろして突然やって来た、いわく付きの美女を呆れた顔でしげしげと見た。
「本当ですねぇ、商売替えでもしてみます?」。九十九里は部屋の隅に転がるS&Wを拾うと懐に入れ銃の持ち主の彼女のそばに近づき、その目を見てにっこり笑った。
「冗談、言うなよ・・・しっかしまいったなぁ、個人的にゃぁあんまり警察とはお付き合いしたくねぇんだが」
警察の事情聴取なんざ表家業に関しても裏家業に関しても良い事なんざまるで無い。正直、人殺しをしてるかもしれないって物騒な知り合いもいないわけじゃ無いがこの女は今現在のワイドショウのネタだ。そういう輩に普通という言い方はおかしな話だが、そういった丹下の知り合いとは全く別の人間だ。へたな扱いをしたらどんな目に会うか解ったもんじゃ無いだろう。
「あんたもう暴れないね、いい所に来たよ、この人は悪いようにはしないから安心しな」
女の扱いに慣れた九十九里は、やさしくその手を取ると手錠を解いてやった。
「おい!何、勝手な事やってんだ?親殺しなんぞに同情すると思ってんのか?俺が?」
「私はやってない!!!」
「あぁそう言うんですよ、やっちゃった人は、みーんな」
丹下は冷ややかにそう言うと何事も無かったかのように、カップ麺の残りの汁を、すすった。それを聞き彼女が黙ってうつむくと、穴が開いて風通しの良くなったノートパソコンが彼女の方を向きウェブカメラが彼女の表情に焦点を合わせた。
「にしたってどうするでござる、警察に素直に連れて行くでござるか?」
「それも避けたいのは避けたいんだよなぁ参った実際・・・」
丹下はコンビニで貰った割り箸をボキリと折るとカップに押し込んでゴミ箱に放り込んで、頭をゴシゴシ掻いた。
「鮎川さんでござるね、どこで、この金貸しの話を聞いたんでござるか?」
「・・・・なんなんですか?このパソコン?」
「いやその、説明すると長くなるし、説明するわけにもいかねぇんだ気にするな」
めんどくさそうに彼女の顔を見て丹下は困った。美人の涙くらい信用出来ない物が無い事は、もうよーく知ってる年になったが、やっぱり得意な分野かと聞かれりゃぁ得意とは言えない。
「タクシーの運転手さんに・・・自分も借りてるけど安心だって」
「そいつ、鶏ガラみたいに痩せた目のニヤケたオッサンだったろう」
以前、高田の馬場の犬猫病院で内臓取るって脅した事がある どうしようもない客の一人だった。あいかわらず無責任な脳天気野朗だったが、まぁたやっかいな事をしてくれたもんだ。なるほどあいつだったらこの女の正体も知らずにそう言う事を平気で言いそうである。そう思って丹下は舌うちした。
「ちょっと表に出てる情報をざっと調べてみたんでござるが・・・鮎川さん良いでござるかな?」
「???・・・はい・・・???」
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Jan.31(Wed)15:34 | Trackback(0) | Comment(0) | 丹下幸平 千石の壷 | Admin
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