坪内昭三1947 其の25 |
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| 橋本はショートカットに成功した。
川原の土手沿いを爆走するウェイン少佐のすぐ後ろに着くがここは抜きようが無い細い一本道だった。それでも橋本は諦めない100メートル先にカーブが見えて来た、目の前は50度はある土手だ。
ウェインが減速を選択した瞬間、橋本は最後の意識を振り絞ってアクセルを、いっきにべた踏みした。
ウェインのジープの後部と橋本のジープのフロントの右面が一瞬こすれて前者がバランスを失い、雨の中スピンしていった。
橋本はウェインの頭上にいた。
土手に奇跡的に張り付きながら彼を追い抜いていく。
一秒が一時間に思える瞬間。
ウェインは、鮮烈に彼が探していた物を見つけた。
仲間達が用意したゴールを橋本は通り過ぎて行った。もう半分意識が無かった、彼はすでに疾走する車の中で別世界にいた。異常を察した仲間達が慌てる声が聞こえたような気がした。
車体はゴールの向こうの湖に宙を舞いながら飛び込んでいった。
沈みながら橋本は水面を見ていた。
どんどん離れて行く。
なにもかも許せた。
戦争に負けた事も。
愛する物も。
憎い物も。
この運命も。
死が友人になった。
なにも感じない。
橋本が全てを許したそのとき、ソルミの顔が見えた。助けに来たのだ。
迷わず。
その瞬間、失ったはずの体中の痛みが帰って来た。
それは橋本にとって喜ばしい痛みだった。
生きるのもいい。
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1月26日(金)00:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理
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