千石の壷 6 |
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夕暮れの富士が見える何も無い荒野に敷かれたアスファルトの一本道をただひたすら走った先に一件の巨大な堀に囲まれた日本建築の豪邸があった。
豪邸の巨大な門に掲げられた表札に書かれた文字は「砂原」。
冷たい砂嵐が吹き付ける中、ヨーロッパの霊柩車を連想させる黒い大きなロールスロイスがすべる様に豪邸への一本道を走り抜けて行った。
ロールスロイスが門の前に到着すると、きしむ音一つさせずに見上げる高さの門がゆっくりと開き、車が屋敷の中に入って、なおしばらく進んだ先にようやく屋敷が見えて来た。人気は無いが、庭の草木は徹底的な手入れが施されている。 ガレージのシャッターが車が近づくのと同時に開きロールスロイスは無駄な動きを一つもせずに、その中に入って行った。 豪邸のわりに、所有されている車は少なかった、ロールス以外にあったのは古いベンツが一台と黒いボルボが一台、いずれも見た事が無い型だったが買ったばかりの新車のように光り輝いていた。しかし車は後、30台入っていても不思議は無いと言う巨大な空間である。ようやくロールスが停車し運転手がそっと後部座席のドアを開けると50代のアルビノのように色の白い長身の紳士が黒く鈍く光る細身のステッキをついて中から出て来た。
その目は赤みを帯びている。
ゆっくりとしかし、しっかりとした足取りで紳士が行く先にまた門が有り、執事らしき六十代の小男が出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「今日は疲れたよ、あまり外には出たく無い物だ」
どうやらこの屋敷の主らしきこの男はそれだけ言うと、執事を従え長い長い廊下を無言で進んで行った。
しばらくして男は薄暗い書斎らしき部屋に入ると黒檀で出来た重い机の前にあるソファに座りリモコンのスイッチを入れた。彼の目の前の壁が開いて巨大な液晶モニタが現れ、何か研究所らしき物の風景が映し出された。 モニタの光に照らされた室内には無粋な調度品は一切無かったが木製の壁と文化財に今すぐ指定されそうな鈍いつやを持つ太い梁が彼の頭の二メートル上を通っている。
「クローンの出来はどうかね?」
彼がモニタにロシア語でそう問いかけると、白い髭を生やしたスラブ系の40代の男がニコリともせずに「順調です」。と淀みない日本語を返してきた。
(千石の壷 6後編はこのエントリに後日アップ)
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Nov.15(Thu)06:21 | Trackback(0) | Comment(0) | 丹下幸平 千石の壷 | Admin
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