丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947
~説明~
苦し紛れで出した坪内が一番気になるキャラになってしまった


二話目にしてイキナリ外伝(笑


坪内昭三1947 目次

其の1→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02Bb454666E2/1/
其の2→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02b245466AA2/1/
其の3→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02az45466918/1/
其の4→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02oB45466ACA/1/
其の5→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02q445466AD3/1/
其の6→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02v345466AE5/1/
其の7→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc021z45466AF6/1/
其の8→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc028J45466B0B/1/
其の9→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02DL45466B1A/1/
其の10→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02IR45466B29/1/
其の11→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02ax45466B61/1/
其の12→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02lt45466B85/1/
其の13→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02hj45466AB5/1/
其の14→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02Ip45466BF0/1/
其の15→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc02cB45466C2D/1/
其の16→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Xz45466D8F/1/
其の17→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Vh45466E6B/1/
其の18→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03Bg45466EFE/1/
其の19→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03TF45466F3A/1/
其の20→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03AT45466FC7/1/
其の21→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc03AT45467169/1/
其の22→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04XF45467D4A/1/
其の23→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04sf45467D92/1/
其の24→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc04dQ45467E31/1/
其の25→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08lx45B8C84A/1/
其の26→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08VR45B99127/1/
エピローグ→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08DR45BB14AC/1/



1月27日(土)18:20 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 エピローグ

 それから数日が過ぎたある日、橋本は傷をいやしていた坪内の借りていた借家で荷物をまとめていた。もっとも最初ここに来た日に着ていた旧軍の軍服とその後買い揃えた洗面道具と僅かな現金以外持って行ける物など何も無かったが。
 昨日まで寝ていた寝床の枕元には傷ついた手でどうやったのかは解らないが例の坪内が持ってきた洋裁の仕事がきちんと仕上げられ、畳まれている。

 ソルミの事は、どうしようか迷った。一緒に帰ってくれないかと頼めば案外素直についてくるかもしれない。これからの橋本にとってはしっくり嵌らない「平和な世界」との彼女は潤滑油になってくれるだろう。しかし田舎の風景を思い出すと何故かそれは酷な事のように思われた。

 苦労するのは、あいつだ。

 それでソルミとは顔を合わせずに出て行く事に決めた。

 少々男らしく無い。そんな風にも思ったが、そんな選択をするのが橋本だった。

 ズダ袋に持ち物を収めると今朝ソルミが取り替えてくれた右手にしっかり巻かれた真っ白な包帯を少しの間だけ見つめた。

 台所で子供をあやしながらうつらうつら居眠りをしていたお菊の目を盗み、そっと橋本は家を出た。



 外は快晴だった、散歩に行くような足取りで橋本は黄金地帯へと歩いていった。近くまで行くと米軍の戦闘車両を運ぶ巨大なトラックいわゆる「ドラゴンワゴン」が見えてきた。
 とんでもなく馬鹿でかいそのトラックの背中には錆びだらけの例の戦車がのっていた。
 間近にたどり着くと作業するMPのそばで佐門がそれをいかにもおしそうな顔で見ている。

「どうなるんだこいつ」。橋本が後ろから声をかけた。
「没収ですわい、他の屑鉄は整地作業っちゅう名目でわしらのもんになることになりもうしたが、こいつだけは物騒だからアメリカに持って行くらしいですたい」
「向こうに行ってどうなるのかね」
「うまく行けば博物館入りだそうですたい」
「そうか・・・残ってくれりゃいいんだがな・・・」
「ところで橋本どん、どちらに」
「ちょいと散歩さ」

 そうとぼけると、鈍感なこの九州男児に笑顔で見送られながらその場を離れていった。

 全ての仲間達が真っ黒になって働いていた。終りなど無いのだ、苦しかろうと悲しかろうと、嬉しかろうと全ての人間は形はどうあれ働きつづける。そのことに関して言えば橋本とて同じ事だ。ただここは自分が根をおろす場所では無い、そう思った。そのことを思うと心の中に田舎の親父の背中が見えてくる。
 第一、あの程度の現実とは関係が無い馬鹿騒ぎを恩に着せて、坪内のやっかいになるような程度の低い考えはどう逆さにしたって橋本という人間には持てなかった。

 これでいい。

 潰されなかった片方の目でしばらく、懸命に土を掘る仲間達を少し離れた位置からしばらく見つめ。そう割り切った橋本は清々しい顔をして、そっと黄金地帯を後にした。







 入れ替わりで借家に帰ったソルミは、仕上げられた洋服を見て事態をすぐに察した。橋本の寝床のあった奥の部屋に素早く入り押入れを開けるとそこには皮の小さな旅行鞄が用意されていた。

 鞄をつかむとソルミは、迷わず駆け出した。

 絶対逃がさない。

 そう旅行鞄を用意した時から彼女は心に決めていた。



1月27日(土)18:00 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の26

 橋本がジープの吐き出す油とともに湖の水面に浮き上がり、慌ててソルミの後に飛び込んだ仲間達がひぃひぃ言いながら彼を陸に引きずり上げた。飛び込んだ中には彼を追ってきたウェインもいる。
 そうして意識を失った橋本の蘇生作業が行われている最中に、坪内がやっと駆けつけた。

「勝ったのはどっちなんだ」

 その瞬間、橋本はゲボリと水を吐き出した、呼吸が再開した。

「俺さ」

 言葉よりも早く、橋本を囲む全ての人間が大声を上げて動き出した。雨はすっかり上がっていた。泥まみれの坪内が橋本とソルミを置いて仲間達にかねてよりの段取りどおり動くよう指示を始めた。とりあえずの言葉だけをかけ坪内が、その場を離れようとした。信じられないと言う顔で橋本を抱えたソルミがヒステリックな声で叫んだ。

「ちょっと待ってよ!!あんたこの人をほおっておくの!!」
「時はまっちゃぁくれん!!橋本っさんは、お前とお菊に任せる、俺達はやらなきゃならないんだ!!」

 その顔に憂いの念も何も無かった。ウェインもそんな坪内の動きを見て何も無かったかのように彼と共に歩き出した。歩きながら今後の動きを打ち合わせながら怒りの表情のソルミを置いて全ての人間が次の行動を始めていた。

「すねてる場合じゃないよソルミ、あたし達はあたし達でこの人を何とかしてやるんだ」
「それにしたって」
「あの人が人でなしじゃないって事を証明するのが あたしらの今の仕事なのさ、ホラさっさと足もって」

 混濁した意識の中、橋本はそんな仲間達を見ていた。

 彼らは、これから始まる。

 俺がここでやるべき事は終った。

 幸いしかし生きている。

 まだ生きろという事なんだろう。

 大八車に乗せられて、彼はそれを一生懸命押す細腕の少女の表情を見た。

 愛おしい、素直にそう思った。

 痛みがまた強くなった。







 それから橋本は一週間動けなかった、ソルミは嫌がりもせず献身的に橋本の世話をした。そうしてあれから三日がたち、ようやく坪内が見舞いに来た。

「橋本っさんどうだい調子は」
「しらじらしい・・・」。ソルミは膨れた。

「まぁ何とかな、便所に立てるぐらいにゃなったぜ」
「まだ・・・・針はもてんじゃろなぁやっぱり」

 一応すまなそうな顔を作ってずうずうしく、坪内はまた仕事を持ってきた。橋本は失笑した。この男にはかなわない。

「いやぁその訳は、説明したんだがな、先方がそれでもやってくれって言うもんじゃから・・・」
「お前ねぇ、俺は見ての通り丹下作善だぞ、この右手を見ろ!馬鹿!!」

 包帯を硬く巻きつけたボロボロの右手を彼は笑いながらその目の前に突き出した。

 手だけじゃぁ無い目も片方は完全に潰されていた。

「うーむじゃぁこれからは左手じゃな、左手で針を持つんじゃ、それで頼む」

 真顔で、坪内がそういって、ソルミは思わず茶をこぼした。

 しかしあれ以来、橋本がそれに関して愚痴をこぼした事は一度も無かった。

 どうなろうが生きるだけだと言う橋本にとって、もはやそれらは暗くなる要因になる事があろうはずも無かった。恐ろしかった平和と言う奴を何とか受け入れられそうな気がしていた。彼の傍にはソルミがいるのだから。



1月26日(金)14:27 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の25

 橋本はショートカットに成功した。

 川原の土手沿いを爆走するウェイン少佐のすぐ後ろに着くがここは抜きようが無い細い一本道だった。それでも橋本は諦めない100メートル先にカーブが見えて来た、目の前は50度はある土手だ。

 ウェインが減速を選択した瞬間、橋本は最後の意識を振り絞ってアクセルを、いっきにべた踏みした。

 ウェインのジープの後部と橋本のジープのフロントの右面が一瞬こすれて前者がバランスを失い、雨の中スピンしていった。

 橋本はウェインの頭上にいた。

 土手に奇跡的に張り付きながら彼を追い抜いていく。

 一秒が一時間に思える瞬間。

 ウェインは、鮮烈に彼が探していた物を見つけた。




 仲間達が用意したゴールを橋本は通り過ぎて行った。もう半分意識が無かった、彼はすでに疾走する車の中で別世界にいた。異常を察した仲間達が慌てる声が聞こえたような気がした。

 車体はゴールの向こうの湖に宙を舞いながら飛び込んでいった。

 沈みながら橋本は水面を見ていた。

 どんどん離れて行く。

 なにもかも許せた。

 戦争に負けた事も。

 愛する物も。

 憎い物も。

 この運命も。

 死が友人になった。

 なにも感じない。




 橋本が全てを許したそのとき、ソルミの顔が見えた。助けに来たのだ。


 迷わず。

 その瞬間、失ったはずの体中の痛みが帰って来た。


 それは橋本にとって喜ばしい痛みだった。


 生きるのもいい。



1月26日(金)00:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

坪内昭三1947 其の24

二台のジープの距離は一向に縮まらなかった。
必死に坪内もナビをするのだが、賭けに出た後の少佐は走りが別物になっていた。

カーブへの飛び込み方が明らかに大胆になっている。

伍長を降ろした事で吹っ切れたのが明らかに解る走りだ。

ギリギリの走りが続きいよいよ麓の大根畑が見えるようになってきた。
少佐のジープが遠くに見えた、その時、前方に予想外の倒木

「うはっ!!」

「くそっ!!」

回避の為の急操作でジープは無残にスピンしていく。

「うぉーーーー!」

ガクンと車体前方が路肩に落ちた所で、無残な状態でジープはストップした。

「橋本っさんすまねぇ・・・くそーーー」

橋本がハンドルに突っ伏した状態でうなっていた。よく見ると全身血まみれだ。
それを見て坪内は我に帰った、そうだ、そんな状態だったんだ。
右手に縛り付けた鉄板が無残に食い込み血が雫となって包帯の下からポトポトと
音を立てて落ちている。

「橋本っさん、もう諦めよう・・・よくやってくれた・・・すまん」

「なんだとう??」

荒い息使いで、橋本は坪内を睨んだ、もの凄い目だ。
ここで橋本の感情に負ける訳には行かない、どう言葉を続けていいか解らない
坪内は、とにかく馬鹿陽気に言葉を続けた。

「いやっもう無理じゃ!こうなっちまったらなぁガハハハ!車も、もうどうにもならんし・・・」

確かにその通りだった、車体の底が崖に引っかかったような状態でもうどうにも成らない
仮に何とか林道に戻れたとしても倒木が道を塞いでしまっている。
目の前は、麓に流れていく川である。落差15メータと言った所だ。
商売以外の何かで燃える、橋本の眼線をごまかしながら、オドケテ坪内は自分をしばりつけた
ロープを解きながら言葉を続けた。

「命あっての、物種よ、今回の大勝負にゃ負ける事になっちまってもなぁ人生は長い
これで終わりじゃぁ無いんじゃ、時には諦めも肝心よはっはっ」

「そうだ、確かに嫌になるぐらい、人生は長い・・・」

「そーじゃ!そーじゃ!全力出してやったんじゃ、誰も恨まん、それにあんたとワシなら
きっとまた、でかい勝負は出来るさ、あんたがいてくれりゃ百人力さ


これは、この商売人の、もう最後のとっておきの「告白」に近い言葉だった。
橋本が、この一件が終われば、ここから去る気でいるのは、坪内も薄々感じては、いた。
しかし、この言葉にそれなりに威力はあると彼は確信を持っていた。
橋本は、坪内のナビゲーション用の帳面を見ながら、それを聞いて、ぽつりとつぶやいた。

「・・・そうかもな」

坪内は、この言葉を心底喜んだ、商売云々じゃない何かが熱く湧き上がってきた。

「とにかく、降りようぜ橋本っさんこのままじゃ、川に転がり落ちちまう・・・なぁ!」

そう言って坪内が、そっと車を降りて運転席側のドアに近寄ると。
橋本が坪内の眼を観て言った。

「悪いな、ここから先は俺の領分だ、楽しませてもらう」

「えっ」

橋本は帳面を降りた坪内に投げつけ、ギアを四輪駆動に切り替えた。



11月22日(火)00:40 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理


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