丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



丹下幸平 千石の壷
~説明~
あれから一年、丹下幸平も33歳になりましたが作者と違って丹下は変わらないようです。

千石の壷 目次

1→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08yT45BC89AB/1/

2→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08BX45BECDC9/1/

3→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08kE45C03878/1/

4→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc08at45C33AC6/1/

5→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc081B45C6067C/1/

6→http://mkbag.btblog.jp/cm/kulSc13LG473B66D9/1/



11月15日(木)06:30 | トラックバック(0) | コメント(66) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 6

 夕暮れの富士が見える何も無い荒野に敷かれたアスファルトの一本道をただひたすら走った先に一件の巨大な堀に囲まれた日本建築の豪邸があった。

 豪邸の巨大な門に掲げられた表札に書かれた文字は「砂原」。

 冷たい砂嵐が吹き付ける中、ヨーロッパの霊柩車を連想させる黒い大きなロールスロイスがすべる様に豪邸への一本道を走り抜けて行った。

 ロールスロイスが門の前に到着すると、きしむ音一つさせずに見上げる高さの門がゆっくりと開き、車が屋敷の中に入って、なおしばらく進んだ先にようやく屋敷が見えて来た。人気は無いが、庭の草木は徹底的な手入れが施されている。
 ガレージのシャッターが車が近づくのと同時に開きロールスロイスは無駄な動きを一つもせずに、その中に入って行った。
 豪邸のわりに、所有されている車は少なかった、ロールス以外にあったのは古いベンツが一台と黒いボルボが一台、いずれも見た事が無い型だったが買ったばかりの新車のように光り輝いていた。しかし車は後、30台入っていても不思議は無いと言う巨大な空間である。ようやくロールスが停車し運転手がそっと後部座席のドアを開けると50代のアルビノのように色の白い長身の紳士が黒く鈍く光る細身のステッキをついて中から出て来た。

 その目は赤みを帯びている。

 ゆっくりとしかし、しっかりとした足取りで紳士が行く先にまた門が有り、執事らしき六十代の小男が出迎えた。

「お帰りなさいませ」

「今日は疲れたよ、あまり外には出たく無い物だ」

 どうやらこの屋敷の主らしきこの男はそれだけ言うと、執事を従え長い長い廊下を無言で進んで行った。



 しばらくして男は薄暗い書斎らしき部屋に入ると黒檀で出来た重い机の前にあるソファに座りリモコンのスイッチを入れた。彼の目の前の壁が開いて巨大な液晶モニタが現れ、何か研究所らしき物の風景が映し出された。
 モニタの光に照らされた室内には無粋な調度品は一切無かったが木製の壁と文化財に今すぐ指定されそうな鈍いつやを持つ太い梁が彼の頭の二メートル上を通っている。

「クローンの出来はどうかね?」

 彼がモニタにロシア語でそう問いかけると、白い髭を生やしたスラブ系の40代の男がニコリともせずに「順調です」。と淀みない日本語を返してきた。

(千石の壷 6後編はこのエントリに後日アップ)



11月15日(木)06:21 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 5

 殺し屋だ、そうとしか思えない、そんな男は靴も脱がずにズカズカと部屋に上がって来た。丹下は素早くパソコンを強制終了させた。

「おいっどう言うつもりだ」

「おまえの事は知らん、だが女がどこに行ったか教えないなら痛い目に会う事になる、それだけの事だ」

「勘弁してもらいてぇなぁ、女出入りはつつましやかにするように心がけてるもん・・・」

 言葉の途中で男は丹下の襟首をつかむとギリギリと締め上げてきた。丹下の足が宙に浮いた。男の表情は茶碗でも持ち上げたように無表情だ。

「てめっ改造人間か・・・」 

「改造人間では無い」

「冗談のわからねぇ奴は嫌いだよまったく・・・」

「簡単な事だ、女がどこに行ったかそれを言えばそれでこの茶番は終わりにしてやる」

「シラネェよ!!」

 丹下を捕まえた腕の反対の左手で男は一発目の拳を腹に突きこんだ。ごぼっつと低い音がして猛烈な吐き気がわいてきた。

「ほっ本当に・・・シラネェンだよ」

 丹下が蹴りを入れようとした瞬間、男が骨盤のあたりを人差し指と中指を突き出した握りで突いた。その一点から体全体がバラバラになるような衝撃が全身に走って足が言う事を聞かなくなってしまった。丹下が叫ぶその前に機械のように動くその手が丹下の口を恐ろしい怪力で閉じてしまった。

「・・・この調子じゃ言った途端にお前、俺を殺す気だな」

「言えば生かしてやる、そこそこ鍛えた体であることは解るが、お前は俺には、どうあがいても勝てん」

「全くだ、俺は人殺しの修行したわけじゃぁないからな」

「無駄な事はしゃべるな、お前の言うとおり、殺す方法なら色々心えている」

「解った!!解った降参するから放せ!!」

「そのまま言え」

「このままじゃあんまりだ、生かして貰える・・・保障ぐらいくれや・・・」

「そのまま言え」

「・・・小手指の駅だよ・・・20分ほど前だ」

「その先は」

「知るか!!」

 男は、その言葉を聞くと丹下の腰と、腹部に続けて鈍いが芯まで効く拳を肝臓の辺りを狙って、つき込んだ。もう言葉も出ない。

「生かしておいてやる、まぁその程度だろう。・・・どこまで知ってるかは知らんが余計な事はするな、今度は本当に殺しに来なきゃいけなくなる」

 男は乱暴にガラスに丹下を叩きつけるように開放した。うずくまって胃の中の物を全部吐き出している丹下を何の感情も無い目で一瞥した後、男は部屋の中をぐるりと見回し、パソコンをゆっくりと切り離し抱えると、素早く出て行った。

 まるっきり体が動かない、恐怖から体は本能的にガタガタと震えた、後動くのは内臓からくる強烈な痛みを伴う嘔吐の不随意的な痙攣だけだ、手足は言う事をまるできかなかった。

 まいった、あの女が言ってた事の一つは証明された。そうなると、余計な感情がわいてくる。どうにもしょうが無い。でまかせ言ったのだってその為だ。
 小手指まで行くのにあいつがかかる時間は、せいぜい十分、車か何かに乗っているならもっと早かろう。それまでに逃げ出さねばならない。胃の中の物を本当に全部吐き出して胃液も底がついた頃ようやく手に力が入るようになった。叫びながら足を叩いて感覚を取り戻し、必死に立ち上がると丹下は壁につかまりながらずるずると部屋を出ると、今朝、借金の形に取り上げたボロ車に向かった。

 何だか解らんが、どうやら今度は本当に命がけだ。



2月5日(月)01:14 | トラックバック(0) | コメント(1) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 4

 『千石の壷』この壷の由来から今回は語ろう。

 16世紀、室町幕府が実質的に瓦解した戦国後期、いわゆる織豊期と呼ばれる時代の始まる直前に全国の戦国大名が取り合った中国製の壷の一つである。正式には『砂原』と呼ばれるのであるが、戦国時代の音をかけて『千石の壷』と俗名で呼ばれる事が多い。
 砂原と言うのは、当時の豪商だったとされる『砂原剛三郎』なる謎の人物がこの壷の流行に一役かったらしいからだ。一般的な歴史家からはその実在は否定されているが、この人物は実はこの壷の流行よりもむしろ当時起こった、急速な鉄砲の全国普及の黒幕であると、江戸初期の文献にまことしやかに語る物が数点存在する事で知られている。
 俗名こそ『千石』とされているが、もっとも流行が過熱した16世紀半ばの頃には一国の主が、それこそ何千石と言う高価な値をつけて買ったそうだ。一説によれば若き日の信長もそれを所有していたらしい。

 その後、利休などの文化人の登場する頃になって、何故かこの壷の流行は一気に沈静化してしまい、歴史からその姿を消してしまった。今残っているのは奈良の博物館が所蔵する一点と本願寺が所有する一点のみで、民間の所有者は全くいないとされていた。しかしそれを所有していたと言う事が鮎川老人の死後その目録から明らかになったのである。


 本物であれば値のつけようも無い珍品であった。


 その珍品が、老人の死後、突然消えてしまったのだ。生前の彼に何故か慕われ蔵の中にも何度も入った事のある愛理に両親は何者かに殺される前日、問いただした。彼女に贈られる事になっていた美術品の一点にそれが含まれていたためだ。

 当然、彼女は、そんな事知るはずが無かった、しかし優しかった両親は、その日初めて彼女に見せる表情で目の色を変えて詰問してきた。当然のように派手な口論が繰り返され、いたたまれなくなった彼女は夜中に家を飛び出して東京の賃貸マンションへと引き上げたのである。

 その翌日、千葉の豪邸の寝室で愛理の両親は拳銃で何者かに惨殺されてしまったのだ。葬式の直後、悲しみにくれる彼女に警察は何度か事情聴取を行ったがまだこの段階では疑われてはいたのだろうが警察もはっきりとはそれを態度には示さなかった。それが二週間前、何者かの密告により警察が動いたのである。



「まぁなぁ、こんな物騒な物もってっちゃぁ、何言われたって弁解できねぇよなぁそりゃ」



2月2日(金)22:21 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理

千石の壷 3

「まったく、ここんところロクな客がこねぇと思ってたら極めつけが来ちまったなぁ・・・嫌になって来るぜ」

 そういって丹下は事務机に腰を降ろして突然やって来た、いわく付きの美女を呆れた顔でしげしげと見た。

「本当ですねぇ、商売替えでもしてみます?」。九十九里は部屋の隅に転がるS&Wを拾うと懐に入れ銃の持ち主の彼女のそばに近づき、その目を見てにっこり笑った。

「冗談、言うなよ・・・しっかしまいったなぁ、個人的にゃぁあんまり警察とはお付き合いしたくねぇんだが」

 警察の事情聴取なんざ表家業に関しても裏家業に関しても良い事なんざまるで無い。正直、人殺しをしてるかもしれないって物騒な知り合いもいないわけじゃ無いがこの女は今現在のワイドショウのネタだ。そういう輩に普通という言い方はおかしな話だが、そういった丹下の知り合いとは全く別の人間だ。へたな扱いをしたらどんな目に会うか解ったもんじゃ無いだろう。

「あんたもう暴れないね、いい所に来たよ、この人は悪いようにはしないから安心しな」

 女の扱いに慣れた九十九里は、やさしくその手を取ると手錠を解いてやった。

「おい!何、勝手な事やってんだ?親殺しなんぞに同情すると思ってんのか?俺が?」

「私はやってない!!!」

「あぁそう言うんですよ、やっちゃった人は、みーんな」

 丹下は冷ややかにそう言うと何事も無かったかのように、カップ麺の残りの汁を、すすった。それを聞き彼女が黙ってうつむくと、穴が開いて風通しの良くなったノートパソコンが彼女の方を向きウェブカメラが彼女の表情に焦点を合わせた。

「にしたってどうするでござる、警察に素直に連れて行くでござるか?」

「それも避けたいのは避けたいんだよなぁ参った実際・・・」

 丹下はコンビニで貰った割り箸をボキリと折るとカップに押し込んでゴミ箱に放り込んで、頭をゴシゴシ掻いた。

「鮎川さんでござるね、どこで、この金貸しの話を聞いたんでござるか?」

「・・・・なんなんですか?このパソコン?」

「いやその、説明すると長くなるし、説明するわけにもいかねぇんだ気にするな」

 めんどくさそうに彼女の顔を見て丹下は困った。美人の涙くらい信用出来ない物が無い事は、もうよーく知ってる年になったが、やっぱり得意な分野かと聞かれりゃぁ得意とは言えない。

「タクシーの運転手さんに・・・自分も借りてるけど安心だって」

「そいつ、鶏ガラみたいに痩せた目のニヤケたオッサンだったろう」

 以前、高田の馬場の犬猫病院で内臓取るって脅した事がある どうしようもない客の一人だった。あいかわらず無責任な脳天気野朗だったが、まぁたやっかいな事をしてくれたもんだ。なるほどあいつだったらこの女の正体も知らずにそう言う事を平気で言いそうである。そう思って丹下は舌うちした。

「ちょっと表に出てる情報をざっと調べてみたんでござるが・・・鮎川さん良いでござるかな?」

「???・・・はい・・・???」
 



1月31日(水)15:34 | トラックバック(0) | コメント(0) | 丹下幸平 千石の壷 | 管理


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