丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 其の1

埼玉県の所沢市、小手指のあたりに余り知られていないが
わりと大きな陸軍の軍需工場があった戦争が終わって
2年近くが過ぎたがこの工場は何故か念入りに爆撃された為
接収するべき兵器も無く占領軍の管理下にあるとは言うものの
その管理はズサンでいわゆる「屑鉄屋」には格好のシノギの場だった

彼らは、この知られざる工場跡地を『小手指黄金地帯』と呼んだ

掘れば何かしらの金属が後から後から出てくるのである
しかしこう言う場所にトラブルは付き物だ、厄介なのは朝鮮からの強制移民の集落が
近くにあり、日本人の屑鉄屋との縄張り争いからのちょっとした暴力沙汰が日常茶飯事となっていた

そんな幾つかの小競り合いをしている業者の中に
「坪内商会」の屋号を名乗る業者がいた、元陸軍軍人5人からなる屑鉄業者だったが
リーダーの坪内昭三25歳が、貪欲な男で売れる物はなんでも売った

ちょっとした新興勢力であり地元のヤクザなどからすれば眼の上のタンコブといった存在である

彼らは、比較的、移民ともうまくやっており、移民と真っ向から対立する
地元ヤクザ連と違ってシノギは右上がりの状態だった、

そんな1947年の6月のある日それは見つかった


「みんな!大物じゃ、とんでもないもんが出てきもした」

空の大八車で砂煙を上げながら走って帰ってきた佐門が言った
坪内商会の他のメンバーは作業小屋のバラックで、昼飯を食いながら銅線の被覆を削っていた

「なんやぁ!こっちはこっちで忙しいんやで!金塊でも出たんやろうな!」

齧った芋を吹き出しながら眼鏡の関西人が最初に返答した

「戦車じゃ!戦車が出てきおった!親方はどこにいもす山崎どん!」

「なんだ、戦車か、珍しくも無い、親方だったら今日はアメ公の接待だよ」

佐門を無視して作業を続けていたこの四人の中で
30代後半の一番年上らしい男がめんどくさそうに続ける

「平田どん、そりゃオイだってスクラップの戦車じゃったらこんな慌てて報告にゃ来ん!」

「丸ごと見つかったって事ですか?そうだったら凄いけどクスクス」

一番若い少年が佐門にヤカンの水を欠けた湯のみに注いで手渡した
手渡された水を一気に飲み干すと佐門は唾を飛ばしながらもう一度言った

「眞田くん!そうなんじゃ!丸ごとじゃぁ!戦車一台丸ごと出てきもした!」

「なんやてぇ?」


興奮する佐門に付いていくと倉庫跡の散々掘り返した一角に
佐門が掘った穴があった、小さな秘密の防空壕が見えるその中にそれは
ひっそりと隠されていた今まで見た戦車のスクラップとはまったく違うそれは
正式には九二式重装甲車と呼ばれる古い旧式の物だ
だが残念な事に履帯と転輪が全て外された状態だった

「なんや、こら確かに凄いけど、走らんでぇ・・・」

「しかしアメ公が高く買ってくれるかもしれもはん!」

「なぁにが悲しくてアメ公がこんな旧式、第一、買うかよ、ばーか」

「でもすごいなぁ・・・」

一同は、穴から出てきた鉄の棺桶を、しばらくじっと見ていた




足周りは外されていたが、まだ武装は外されていない



5月21日(土)12:44 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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