丹下幸平@窃盗犯108号
 
みなーみBlog
 



坪内昭三1947 其の24

二台のジープの距離は一向に縮まらなかった。
必死に坪内もナビをするのだが、賭けに出た後の少佐は走りが別物になっていた。

カーブへの飛び込み方が明らかに大胆になっている。

伍長を降ろした事で吹っ切れたのが明らかに解る走りだ。

ギリギリの走りが続きいよいよ麓の大根畑が見えるようになってきた。
少佐のジープが遠くに見えた、その時、前方に予想外の倒木

「うはっ!!」

「くそっ!!」

回避の為の急操作でジープは無残にスピンしていく。

「うぉーーーー!」

ガクンと車体前方が路肩に落ちた所で、無残な状態でジープはストップした。

「橋本っさんすまねぇ・・・くそーーー」

橋本がハンドルに突っ伏した状態でうなっていた。よく見ると全身血まみれだ。
それを見て坪内は我に帰った、そうだ、そんな状態だったんだ。
右手に縛り付けた鉄板が無残に食い込み血が雫となって包帯の下からポトポトと
音を立てて落ちている。

「橋本っさん、もう諦めよう・・・よくやってくれた・・・すまん」

「なんだとう??」

荒い息使いで、橋本は坪内を睨んだ、もの凄い目だ。
ここで橋本の感情に負ける訳には行かない、どう言葉を続けていいか解らない
坪内は、とにかく馬鹿陽気に言葉を続けた。

「いやっもう無理じゃ!こうなっちまったらなぁガハハハ!車も、もうどうにもならんし・・・」

確かにその通りだった、車体の底が崖に引っかかったような状態でもうどうにも成らない
仮に何とか林道に戻れたとしても倒木が道を塞いでしまっている。
目の前は、麓に流れていく川である。落差15メータと言った所だ。
商売以外の何かで燃える、橋本の眼線をごまかしながら、オドケテ坪内は自分をしばりつけた
ロープを解きながら言葉を続けた。

「命あっての、物種よ、今回の大勝負にゃ負ける事になっちまってもなぁ人生は長い
これで終わりじゃぁ無いんじゃ、時には諦めも肝心よはっはっ」

「そうだ、確かに嫌になるぐらい、人生は長い・・・」

「そーじゃ!そーじゃ!全力出してやったんじゃ、誰も恨まん、それにあんたとワシなら
きっとまた、でかい勝負は出来るさ、あんたがいてくれりゃ百人力さ


これは、この商売人の、もう最後のとっておきの「告白」に近い言葉だった。
橋本が、この一件が終われば、ここから去る気でいるのは、坪内も薄々感じては、いた。
しかし、この言葉にそれなりに威力はあると彼は確信を持っていた。
橋本は、坪内のナビゲーション用の帳面を見ながら、それを聞いて、ぽつりとつぶやいた。

「・・・そうかもな」

坪内は、この言葉を心底喜んだ、商売云々じゃない何かが熱く湧き上がってきた。

「とにかく、降りようぜ橋本っさんこのままじゃ、川に転がり落ちちまう・・・なぁ!」

そう言って坪内が、そっと車を降りて運転席側のドアに近寄ると。
橋本が坪内の眼を観て言った。

「悪いな、ここから先は俺の領分だ、楽しませてもらう」

「えっ」

橋本は帳面を降りた坪内に投げつけ、ギアを四輪駆動に切り替えた。



11月22日(火)00:40 | トラックバック(0) | コメント(0) | 坪内昭三1947 | 管理

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